ほけんたいく
「醜い戦いっつったって、何やるんだ? どうすればいいんかわかんね」
首を傾げて、短距離走は頭を掻いた。
「自分が勝者であるということを認めさせれば、投票なんてしなくても勝者になれるのよね。他の人を全員棄権に追い込めば、絶対的な勝利。いいとは思わないかしら」
冗談かと思ったが、墾田ちゃんだから他の皆は言い切れなかった。
皆さすがに冗談だとは思っているが、自信を持っていうことは出来なかった。
なぜなら、墾田ちゃんは笑っていたから。
彼女の笑いは実に妖しく、本当に棄権へと追い込んで行きそうだった。
だからこそ、恐れるような素振りは見せちゃいけないと考えた。
「それ、いい。潰し合う」
完全な無表情で、色彩は墾田ちゃんに同意の意を示すような言葉を発した。
まるで最初に戻ってしまったかのような、冷たい無表情を浮かべている。
「そんじゃ、自分が得意なことに持っていけばいいんだね。自分の担当教科で勝負すれば、敗北は絶対に有り得ない。ほら、ミスターエックスくんみたいにね」
ニヤッと笑い、パイはミスターの方をちらっと見る。
それに一瞬怯えるような表情を見せたが、ミスターは自信気に笑っていた。
彼にしては珍しく、不安な表情に自信が見え隠れしていたんだ。
ということは、かなり自信があるということである。そうでもなければ、彼の表情に自信なんて浮かばないから。
それを感じ、パイも少し不安を見せる。
しかし彼だって、それを表情に出したりはしない。
素直ではあるが、単純ではないから。
「いかに私が醜態を晒したとしても、咎めたりはしないで下さいね? 貴方達がそうしろと仰るのですから。私は異常なまでに卑怯で醜いので、それだけは忠告しておきます」
普段通りの微笑みで、かあさんはぺこりと頭を下げた。
「そんなの知ってるよ。初めてあんたを見たときから、すぐにわかったしずっと思ってるよ」
それに対し、墾田ちゃんは馬鹿にするように言って鼻で笑う。
少なからず腹は立てたが、かあさんはそれを全く顔に出さない。
二人の攻防は続くかと思われたが、続かせなかった。
自分たちが不利に立つのが二人ともわかっていたから。
醜態や欲を晒したとしても、性格の悪さは隠そうと思ったから。
「きゃぁっ」
全員が防御の体勢に入ってしまっていたので、かあさんが動いた。
シャープに触れたタイミングで、わざと悲鳴を上げて転んで見せた。
彼女はそうしようとしたのだが、思わぬ邪魔が入った。
短距離走である。
「大丈夫か? 怪我はないよな」
転ぶ前に、かあさんの体を支えてしまったのである。
だからかあさんは倒れることなく、アピールすることも出来なかった。彼は優しさのつもりで取った行動だが、彼女の計画の妨害という結果に終わった。
結局かあさんの計画は、自分のイメージアップに行ったのに短距離走のイメージアップを助けてしまう。
誰にもばれないように、小さく彼女は舌打ちをした。
「私が悪いのです。ごめんなさいね」
短距離走の得意は勝利へ繋がった。