おんがく
「そうね。今日も英語で続けてみる? 小僧に負けたのが悔しくてね」
なんだか可笑しなテンションで、シャープはそんなことを言い出した。
「ごめんなさい。小僧が勝ったりして、ごめんなさい。英語代表のくせに恥ずかしげもなく英語で戦ったりして、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
シャープの恐怖に、ミスターは謝ることしか出来なかった。
涙目になりながら、手で顔を覆って謝り続けた。
彼の臆病さは、結局何も変わっていなかったのだ。
「こんなくそガキ。ギャーギャー騒いで、謝ることしか出来なくて? なんでここに来たのよ、あんたみたいなのが」
誰にも理由はわからないが、シャープは酷く不機嫌であったのだ。
それは、ミスターに負けたのが悔しかったからではないだろう。
そう考えて、倒置は動くことにした。
さすがにミスターが可哀想だと感じたのだ。
そしてミスターがそんな目に遭っているのだから、色彩だって勿論動く。
「負けるのが悪い。五月蝿いよ? 謝る必要はない。戦おう。そして、もう一度勝てばいい」
懸命にミスターのことを励ますが、その程度の言葉は彼の耳にすら届かない。
ましてや、閉じてしまった心に届く筈なんかなかった。
「どうしたのですか、あなたは。嫌いですよ、そうゆう姿。落ち着いて取り戻して下さい、いつもの綺麗なあなたを」
冷たく接するかと思ったが、倒置から出た言葉は温かいものであった。
優しく優しく、シャープにとても優しく声を掛けてあげた。
そんなことを倒置に言われてしまっては、シャープだって機嫌を直すしかない。
「謝るのです、あなたの得意なもので」
必死に背伸びをしてシャープの頭を撫でると、倒置はいつものように微笑んだ。
「醜い八つ当たり、ごめんなさいぃぃい♩」
本来なら、詩で謝るなんて相手を不快にさせても可笑しくない。
きちんと真面目に謝れと、そう怒られても不思議ではない。
それでも涙目だったミスターも、睨み付けていた色彩も和まされた。
それほどまでに、綺麗な歌声であった。
「ミーも悪かったデス。ごめんなさいね」
シャープの得意は勝利へ繋がった。




