りか
「二人切りなんて、本当に照れ臭いですよ。それも、異性の方と……」
頬をほんのりピンク色に染めて、かあさんは短距離走をちらりと見た。
「問題ない。わたしは、今更照れ臭いとは思わなかった」
そんなかあさんに、色彩は微笑んだ。
それが彼女なりの方法だったから。
照れるかあさんを通常運行に戻してあげる為の。
遠回りな優しさのつもりだったのだ。
誰も気付かないほど、遠回りな優しさごっこ。
「羨ましいです。色彩様もミスターエックスさんも。私はそこまで、素直になれそうにありません」
微笑み溜め息を吐いたかあさん。
「でも、私は思うんです。私が植物だとすれば、彼は太陽なのではないかと」
よく聞くフレーズを口にして、かあさんは解説まで始めた。
「太陽とか、笑わせないでよ」
えげつない真顔で、墾田ちゃんは言う。
短距離走自身も、それに頷いていた。
だから、かあさんは必死の解説。
正直、理科用語が増えて短距離走は理解出来ていなかった。
それでも彼女は語り続ける。
自分の好きなものを、他の人にもわかって欲しかったから。
魅力を伝えはするが、短距離走は全て自分のものとしたがっていた。
誰もが求めるものを独り占めする。
そんなことにかあさんは魅力を感じていた。
自分でも称する通り、彼女はイメージほどのエリートではなかった。
それでもエリートを気取るから、ストレスは酷かった。
そして彼女は曲がってしまった。
相手を見下ろして、優越感に浸っていた。
「わたしが悪かったのかな。それなら謝る。ごめんなさいね」
過酸化水素水の得意は勝利へ繋がった。