こくご
「どうでしたか、二人きりの時間は」
久しぶりに全員で集まると、笑顔で倒置が問い掛けた。
それにはシャープ以外の人は驚いた。
「本当に最悪だったわ。九人でいるんでも気持ち悪いに、二人切りとか気持ち悪過ぎるわ」
不機嫌そうに墾田ちゃんは答えた。
本心と反対のことを言い過ぎて、最早口調すら可笑しかった。
「失礼だね。でもまあ、僕も同じ気持ちだったよ。本気で最悪だった」
墾田ちゃんの言葉に腹を立てたとか、そうゆうことではない。
いつも通り、この二人流の照れ隠しである。
そしてそれをお互いに理解していた。
「最高だったよぉぉお♫」
ツンとした二人を掻き消すように、シャープは大声で歌って踊った。
「大丈夫ですか」
久しぶりだった為、少し声が出なかった。
喉を心配して、倒置は反射的に声を掛けていた。
だって彼は優しかったから。
その言葉は、シャープに最高の幸せを与える。
彼女としては、これ以上の幸せないだろう。
素直じゃない倒置からの、素直に心配する言葉。
「心配してくれてありがとう。とても嬉しいよ」
その答えを聞くと、安心したというように倒置の瞳の温かさは消えた。
普段の冷たい冷静な瞳に戻る。
軽蔑しているような、そんな視線に戻る。
「んじゃ、戦闘再開だな。息抜きはもういいだろうよ」
かんなの声を合図に、皆は真面目な表情になる。
休んでいた分、取り返さなければならないと。
「そうね。遊びは終わり、戦いましょう」
剣を鞘から抜き、墾田ちゃんは皆に向ける。
普段から持っている剣のおもちゃを、初めて抜いた。
やっと、本格的に戦い始めるんだ。
「戻して下さい、危険なので」
偽物とわかっていながらも、倒置は怯えてしまっていた。
涙目で鞘に戻すよう促す。
「危なくなんてないわよ」
一応戻したが、墾田ちゃんは笑いながらそう言った。
それが倒置は気に入らなかった。
彼は力を恐れていたから。
暴力という物に怯え続けていたので、笑いごとではなかったのだ。
勿論、実際の剣ではない。
墾田ちゃんの持つようなおもちゃが、彼には怖くて仕方がなかった。
だから必死に語った。
その恐怖と危険さを、理解して貰えるように必死に語り続けた。
具体的に大袈裟なことを、冷静に淡々と語っていた。
その為か、気持ちを届けることが出来た。
危険性を理解させることが出来た。
「あたしが悪かったわ。ごめんなさいね」
倒置の得意は勝利へ繋がった。