ぎじゅつかていか
「嫌われ者よね。嫌われ者だな」
部屋にいるのはたった一人であった。
ペアを作ると、九人なのでどうしても余ってしまう。
そこでかんなと玉結びでペアだと主張した。
寂しい。確かにその感情はあった。
それでも、恋の邪魔をしたくはなかった。応援してあげたかった。
序でに言えば、ライバルたちに元気を出して欲しいと思っていた。
皆もその優しさに甘えた。
だから結果的に、たった一人で呟くことになってしまった。
一人で討論をするくらいなら、参加しなければいい。
そう言ってくれた人もいたが、かんな&玉結びはそれも否定した。
参加しないと言うのは、ルール違反だと考えたからだ。
それに、自分だけ参加しないと言うのも癪だったから。
「おいらは玉結びのこと、素敵な人だと思ってるぜ」
寂しさや恥などの感情を殺し、かんなは玉結びを褒めた。
かんなと玉結びは別人である。
そう言い聞かせることで、涙をぎゅっと堪えていた。
「わっ、私もよ。かんなは素敵な人」
一人のときでも、完璧を求める人であった。
自らの感情を出し、玉結びのキャラを壊してしまった。
それが自分にとって最も許せないことであった。
大人で完璧な女性。そのキャラを崩してはいけない。
自分で自分を叱った。
「ええ、ありがとう。かんなもとても素敵な方だと思うわ」
息を大きく吸って、そう言い直した。
以前、色彩にどうして二つのキャラを演じるのかと問われた。
その答えは強くなりたいからだと思っていた。
そう思っていたけれど、あれから自問自答を繰り返していた。
二つのキャラを演じようとしても、所詮一つの心。
心が二つにはならない。
そんなことじゃ、強くなんかなれない。
強くなるには、もっと別の方法があるのではないか。
最近、そう思い始めていた。
「そうか? ありがとよ。おいら、そう言って貰えて嬉しいぜ」
それでも今更引き返せなかった。
二つのキャラを演じてしまった以上、最後までそれを貫き通すしかない。
途中で方針を曲げるだなんて、それこそ弱いと感じた。
だから二つの心を持っている。そう思い込ませ、一人で話していた。
傍から見れば、頭が可笑しくなったとしか思われないのだろう。
そうは思いつつも、声に出してわざわざ会話をした。
「それじゃあ、今度はベストスリーにもきっと入れるよな。四位って、凄い惜しかったしよ」
笑顔を浮かべているのも限界であった。
そんな中でも、完璧を求め笑い続けていた。
しっかり、キャラを演じ分けていた。
かんなを演じるときには笑顔を、玉結びを演じるときには微笑みを。
そんな細かい表情の変化まで、周りに人がいなくとも完璧に行っていた。
「そうね。一位とは言わないけれど、順位が上がるように頑張りましょうか。私たちなら出来るわ」
私たち。
そう言うのはとても辛かった。
実際一人しかいない訳だし、複数なんかじゃない。
それでも会話をすると言うのは辛かった。
しかしそれを自ら選んだのだから、止めたりしなかった。
辛さに耐えることを強さと考えたから。
逃げることが一番の弱さだと考えたから。
誰も責めはしないけれど、一人で二人を演じ続けた。
「ふふっ」
完璧に表情を作り、玉結びは綺麗に微笑んでいた。
「あははっ」
強くなりたいと願う強い意志から、かんなも声をあげて笑った。
呪いに掛かったのように、二人は笑い合った。