おんがく
「五月蝿いよね? 五月蝿い人って、皆に嫌われるよね」
折角自分に与えられた時間だから。
そう思ったシャープは、思い切ってそんなことを言った。
いつも笑顔な彼女の悲しそうな顔、倒置の優しさは起動するに決まっている。
「仰らないで下さい、そんなこと」
俯いて、倒置は呟くように言った。
そして背伸びをすると、優しくシャープの頭を撫でてあげた。
柔らかい微笑みで、優しく優しく。
「あなたがいたから、ぼくは……っ」
それ以上の言葉、シャープは求めなかった。
その意を示すように、下げていた頭を上げる。
シャープが頭を上げた為、倒置の手は届かなくなった。
「ありがとう。一番大切な人にそう言って貰えて、大満足よ。他の誰に嫌われていたとしても、悲しくないね」
本当に嬉しくて、シャープは微笑んだ。
「仰らないで下さい、そんなこと」
しかしそれでも、倒置は呟く。
再びこの言葉を。
「そんなこと言わないでよ。他の人と仲良くしてたら嫉妬してくれるくらいに」
それでもシャープは微笑んだ。
微笑み続けた。
「ぼくが嫉妬する筈ないじゃありませんか、あなたなんかに」
素直にはなれず、倒置はツンとしてそう言った。
「ふふっ」
そんないつも通りの時間に、シャープは微笑んだ。
「あははっ」
その可愛らしさに、倒置は微笑む訳ではなく声をあげて笑った。
魔法に掛かったのように、二人は笑い合った。