こくご
今日は、部屋に二人しかいない。
玉結びの提案により、二人切りと言う試みが行われたのだ。
それも、男女指定で。
「やはり嫌われているのでしょうか、ぼくは」
寂しそうな、切ない表情で倒置は空に問い掛けた。
顔を上げて天井に向かい。
遠く閉ざされた空に問い掛けた。
「そんな筈ないじゃない。素直になれないだけだから、気にする必要はない。それに、本性を露わにしても」
優しく掛けてくれたシャープの言葉。
その意味が倒置には理解出来なかった。
彼女の優しさに触れ過ぎて、気付けなかった。
「そろそろ、過去を暴露してもいい頃だと思う」
シャープの言葉に、勇気を出して口を開いた。
「ここに来るまで、ぼくは孤独でした」
重い表情とトーンで倒置は言う。
「ぼく、皆様のような天才ではありません。周りからは、無能としか言われませんでした。でも頑張っても、まだ孤独でした」
彼の声は小さく震えていた。
しかしそれを悟られないよう、笑顔を絶やしはしなかった。
苦しい笑顔で、彼は語っていました。
「頑張れば頑張るほど、天才に近付き皆から離れていくんです。無能なぼくに戻るのは嫌。ぼくの中にはその気持ちだけ残りました」
悲しい瞳には、いっぱいの涙を溜めていた。
彼がどんな思いをしてきたか、シャープにはわかった。
だって彼女も、ほぼ同じだから。
天才として避けられてきた人が集まっているから。
「無能なんかじゃないよ。いつだって最高だから、自信を持っていいんだ。それと、自分を愛してあげなよ」
それは、シャープにとって最高の言葉。
それでも倒置にとっては、地獄を並べた言葉たちだった。
彼はそんな言葉を求めていない。
求めていないけれど、なぜだか嬉しかった。
地獄のような言葉が、なんだか嬉しかった。
「無能。最低。自信家。ナルシスト。そう言われているような気分です」
そう返す倒置の笑顔は、先程よりも少し和らいでいた。
それを感じ、シャープも嬉しそうに笑った。
もっと倒置を笑顔にさせてあげたい。そう願い、自分が笑った。
「それでもいいじゃん。少なくとも、自分がその全てに当てはまっていると思ってるし」
少し目を逸らし、悲しい笑顔でシャープはそう言った。
普段の倒置のような、悲しい笑顔で。
だから倒置はシャープのことを、温かい笑顔で抱き締めた。
普段のシャープのような、温かい笑顔で。
「何を仰りますか。あなたは無能でも、最低でもありません。そして他の二つは、真逆過ぎて困るくらいです」
甘い声で、優しく囁いた。
それを彼女は、幸せそうに聴いていた。
彼女から悲しみは消え、幸せだけが残っていた。
愛しの彼の腕の中で。
耳元で聞こえる甘い声。見上げてくる麗しい瞳。首に掛かる吐息。
全てが心地好くて、幸せそうに笑っていたんだ。
「ニヤニヤしないで下さい。気持ち悪い」
やがて手を解き突き飛ばすと、吐き捨てるように倒置はそう言った。
しかしそれが彼の照れ隠しだとわかっていたから。
だからシャープは微笑み続けていた。
「ふふっ」
あまりにもシャープが笑顔なので、倒置も可笑しくなってしまった。
「あははっ」
それが嬉しくて、シャープは声をあげて笑った。
魔法に掛かったのように、二人は笑い合った。