びじゅつ
「お絵描きだよ。勝者はわたしの独断で決める」
いつも以上の無表情で、色彩は画用紙を配った。
そして、誰でも使えるように色鉛筆やクレヨン、絵の具などを用意して行った。
「お題は、好きな物。過酸化水素水に告げたものとは違う。本当に一番好きな物、描いて。わたしの心に響くよう、一生懸命描いてね」
普段の様子から見れば、色彩はミスターにデレデレである。
それでも彼女は美術代表であった。
いかにミスターが好きであっても、決してそれでミスターの絵を選んだりはしない。
そこはちゃんとしているからこそ。そこを他の人も知っているからこそ、一生懸命勝利を目指して絵を描いた。
「何? この遠回りな絵。わたしは知らない、素敵な感情。憧れ、素敵な絵。大事な物を伝えてくれる、とっても素敵な絵。だからわたし、この絵を一位に決める」
無表情のまま皆の絵を見て回っていた色彩。
しかしパイの絵を見たときだけ、彼女の表情は微かに動いた。
一瞬柔らかい微笑みとなり、再び冷たい表情に戻る。その微かな変化を、パイは見抜き喜んでいた。
美術代表に絵を褒められたこと。
無表情な彼女を揺るがすほどの絵を描けたこと。
そのことを、パイは実に素直に喜んでいた。
「もっといい絵があるかもしれないじゃん。本当に僕の絵でいいの? やっぱやめるとか、凹むからやめてよね」
パイが描いていた絵は、墾田永年私財法であった。
墾田ちゃんの絵を描いていた訳ではない。
墾田永年私財法のイラストを描いていたのだ。
「彼女、大切にしてあげて。すぐに壊れてしまうから。きみが守らないと、わたしは壊してしまうよ」
最後にそう言い残し、色彩はそれから一度もパイの絵を見に来なかった。
「一位、パイ。二位、シャープ。三位、倒置。以上」
正直、判定は色彩の好みで行われていた。
誰も文句は言えないけれど。
だって彼女は初めから、独断で決めると断言しているのだから。
「第七回、ゲーム大会でしたっ」