おんがく
「リズムゲームなんてどうかなぁああ♫」
そう言ってシャープが用意したのは、二種類のゲームであった。
一つは全員で楽しめる、携帯型のリズムゲーム。
もう一つは、二人ずつ勝負出来るダンスゲーム。
両方ともシャープにとっては最高の作品。
だから皆にも楽しんで欲しいと思い、持って来ていた。
しかし、体育以外は基本的に運動神経がよくない。
特に五教科代表、その中でもパイなんて壊滅的であった。
体を動かすことを好む筈がなかった。
「ダンスは遠慮しておくよ。それを逃げたと言うのなら、僕はそれでも構わない」
なぜか胸を張りそう言うと、パイは携帯ゲームを一人で始めてしまった。
彼にとっては、通信なんてものも嫌な響き。
途中からは入って来れない為、一人で先にゲームを始めてしまった。
「ごめんなさい」
ぺこりと謝って、ミスターも一人で始めてしまった。
「あなたと踊ってあげますよ、可哀想だから。喜ばないで下さいよ、憐れんでいるのです」
次々に勝手なことを始めてしまうので、倒置の優しさが起動した。
わざと不機嫌そうに微笑んで、シャープの手を取る。
そしてダンスゲームをスタートさせた。
倒置のリズム感はとてもよかった。
手を抜いて掛かっていたとはいえ、音楽代表であるシャープを破るほどに。
「嘘でしょ? 負けるとか有り得ない」
さすがの彼女も、代表教科で負けてはいられない。
これは不味いと、次は完全に本気で掛かった。
しかしそれでも、シャープはギリギリ勝利と言った感じであった。
「上手なのね。正直本気だったけど、もうすぐ負けるところだった」
楽しそうな笑顔で、シャープは倒置の頭を撫でようとする。
「……はぁ、はぁ。けほん、はぁ」
周りの人が心配になるほど疲れ切っていた倒置。
それでもシャープの手を華麗にかわした。
死んでも許さないと言うように、何度手を伸ばしてもかわし続けた。
「大丈夫? 頑張ったから、ご褒美でもあげようか」
シャープだってめげない。
なんとか倒置に構って欲しい。
疲れている倒置に元気になって欲しい。
そんな矛盾する思いで、シャープは倒置に話し掛け続けた。手を伸ばし続けた。
「踊ってあげました、可哀想だから。もう十分でしょう? 五月蝿いですね」
しかしシャープの気持ちを振り払うように、倒置は冷たく言い放った。
確かに彼はとても優しい。
優しいけれど、素直で素直でなかった。
つまり、あまりにも優し過ぎてしまっていたのである。
「まあ、いいや。あなたと踊ってあげますとか、めっちゃいいセリフ貰えたもん。ふふっ、これからも名言残してよね」
ニヤニヤと笑い、倒置に抱き付こうとする。
そして倒置は、それをあえて避けなかった。
飛び付いてくるシャープを、避けようとしなかった。
それにシャープだって驚いていた。
「可愛いなぁ。可愛いな可愛いな、欲しいなぁ! 持ち帰っちゃダメなのかな」
すりすりしてハスハスして、シャープの興奮っぷりには全員ドン引きだった。
そんな中、倒置は嫌な顔一つしなかった。抜け出そうともしなかった。
まるで人形のように微動だにせず、シャープに全体重を預けていた。
「これ、人形化してるよね。ってことは、このまま持ち帰ってもいいんじゃないかな!」
シャープがそんな理解不能な結論に至ってしまうほど、倒置は全く動かなかった。
「あっ、そろそろ時間だね。順位はわかる? そっちのゲーム触れてないし、わかんないんだよね」
ずっと倒置で遊び続けていたシャープ。
だから誰が一番優秀な成績を残しているかなんて知らなかった。
仕方がないので、代わりに色彩が発表する。
なぜだか彼女は全員の順位を把握していたから。
「総合優勝。天才的美少年、ミスターエックス。予想通り。二位は短距離走、三位はパイ。以上」
異常にミスターを褒めながらも、淡々と結果発表をした。
そんな色彩の言葉に、態度に、表情に。
少し頬を赤らめながらも、笑顔でミスターは終了の合図を告げる。
「第六回、ゲーム大会でしたっ」