ほけんたいく
「喧嘩は止せよ。オレの好きなもん教えてやっからさ」
ニッと笑い、短距離走はかあさんの肩をポンと叩いた。
「そうですね。喧嘩など致しません、仲良く致しましょう。では、短距離走さんのお好きな物を教えて下さい」
ウザそうに手を払った。
馴れ馴れしい短距離走の態度が気に入らなかった。
しかし、いい子でいたいからかあさんはそう言った。
「そうだな。やっぱ好きな食いもんは肉だ、肉肉。趣味は走ること。ランキング? ランニング……? あれ、なんだっけ。やっぱ英語はわかんねぇや。とりあえず、走ることが好きだ」
楽しそうに、なぜかドヤ顔で言う短距離走。
誰もそんなことをわざわざ気にしたりはしないが。
皆が心配したのは、ミスターのことである。
さすがに今の言葉は、ミスターが傷付いたことがわかった。
色彩以外の皆も、さすがにわかるレベルであった。
勿論短距離走は気付いていないが。
「最初の主張から、英語大事って言ってくれてたデスのに。やっぱり、ミーに気を遣っていただけなのですね」
慌てて色彩はミスターに寄って行き、優しく微笑み頭を撫でる。
「違う。英語大事。ね? 元気出して」
ミスターのことを励まそうと努力していた。
そして普通に励ましてもミスターは立ち直らないことを悟る。
だから耳元で、優しく優しく囁いた。
「ばかの言葉、気にすることない。きみとあいつは、住む次元が違う。気にすることない」
色彩から発せられたそんな言葉には、驚きミスターは顔を上げる。
ミスターが顔を上げたので、周りで見ていた皆も驚く。
色彩は何を言ったのかと驚く。
「ほんとだよ。保健体育の代表なんて、相手にすることない。きみは五教科で戦おう。五教科が上に決まってるんだから」
そんなことを言ってはいるが、色彩は美術代表である。
そんなことを言ってはいるが、色彩は五教科の代表ではない。
そして色彩の言葉は、かんな&玉結びやシャープのことも無駄にバカにする。
「五教科が上、そうよ。あんたは仮にも五教科なんだから、重視される五教科なんだから。バカの言葉で凹む必要なんてない」
色彩に続いて、墾田ちゃんもそう言う。
彼女の言葉は、ミスターを励ます為の言葉ではない。
自分自身を励ます為に、自分自身に向けて放たれた言葉だ。
「どうしたんだ? そこまで喜ばれるなんて、さすがのオレも驚きだぜ」
わざとか天然か、短距離走はそんなことを言っていた。
わざとだとしても天然なんだとしても、彼の酷さは変わらないのだが。
ミスターの心を折りに来ている策略家なのか。
ミスターのことを想わないバカなのか。
どちらだとしても、ミスターを傷付けている事実は変わらない。
「この場に集まっているような人なんだよ? 繊細な心の持ち主なの。だからさ、そうゆう方法は間違っていると思う。教科で戦ってくれないと、追放するから」
冷静な笑顔のままだが、遂にパイはそう言った。
彼もメンタルはかなり弱いが、武器を手に戦った。
仇を取る為、同志を守る為。
空気を読んで、かあさんは強制終了術を使う。
「ありがとうございます。短距離走さんの好きな物が知れて、とても嬉しいです」
過酸化水素水は笑った。