しゃかい
「皆、これが好きってのがあっていいわね」
あくびをしながら墾田ちゃんは言う。
「墾田永年私財法さんにはないのですか? 好きな物や趣味」
周り中を癒す笑顔で、かあさんは優しく問い掛けた。
しかしそんな笑顔が、墾田ちゃんには苦痛であった。
眩しくて、まっすぐ見ることが出来なかった。
「あるよ」
好きな物ってなんだろう。
墾田ちゃんが考えていると、パイが断言した。
「あるよ、出来るよ」
驚いて全員がパイの方を見る。
「何? あたしの好きな物、言ってみなさいよ。聞いたげるわ」
そんな言い方をしている墾田ちゃん。
でも彼女は素直に気になっていた。
自分の好きな物、趣味。
全くない訳ではない。
勿論担当教科である社会は好きだ。
その中でも特別好きな物だってある。
しかし、言えなかった。
他の人が言っていたようには言えなかった。
好きな食べ物や好きなこと、それを答えられなかった。
「僕だょ」
パイのその答えに、皆驚き硬直。
やがて、微笑ましくパイと墾田ちゃんを見る。
最初は自信満々で言っていたパイ。
最後には視線に耐えられなくて、声が小さくなっていた。
それでもその言葉は、墾田ちゃんの心に響いていた。
「きみは僕のことが好き。今は違くても、将来は絶対そうさ」
素直に嬉しがる墾田ちゃん。
それを見て、パイも今度は自信を持って言うことが出来た。
「そうね。あたしはあんたが好き、そうね……。いつか、もっとちゃんと言ってあげるから」
思いも寄らない言葉だった為、墾田ちゃんは感動していた。
一旦下を向いて落ち着くと、嬉しそうに笑う。
「あんたのこと好きになってあげるから」
墾田ちゃんの言葉は、その場にいた全員を笑顔にした。
「ありがとうございます。墾田永年私財法さんの好きな物が知れて、とても嬉しいです」
過酸化水素水は笑った。