すーがく
「倒置くんは予想通り、と言った感じだね。そのまんまじゃない」
平和な表情で、パイはからかうようにそう言った。
倒置はそれを気にも留めない。
返しがわからない。だから返すことが出来ない。それもあった。
「では、パイさんは何がお好きなのですか? 教えて下さい」
空気を癒す笑顔で、かあさんはパイに問い掛けた。
和やかな雰囲気、いかにもそういった感じである。
「え~、そんなの興味ないよ。人の好きな物なんか知ってどうするのって感じだし」
その雰囲気が落ち着かなくて、わざと墾田ちゃんはそんなことを言った。
そうした方がパイも言い易いだろう。
実はそんな気も遣っていた。
「どうしてそんなことを仰るのですか? 贈り物をするときなどに迷わなくて済むではありませんか。パイさん、どうぞ」
優しく墾田ちゃんに笑い掛け、かあさんは司会として進行した。
「好きな食べ物は、ジャンル的に見れば果物かな。りんごとか、さくらんぼとか。倒置くんと一緒でそのまんまかもだけど、やっぱ計算するのは好きなんだよね。数字大好き、数字は大事な友達……。ごめんなさい」
途中までは笑顔で調子よく話していた。
しかし、だんだん自分の言っていることが悲しくなってくる。
そして最終的には謝るような結果となってしまったのだ。
「何が数字は大事な友達よ。どんだけ寂しい人なの? ふん、友達くらいいるでしょうよ」
凹んでいるパイに対し、容赦なく墾田ちゃんは冷たい言葉を浴びせた。
ようにも思えただろう。
墾田ちゃんはそんなに悪魔じゃない。
「少なくとも、あたしはあんたと友達だと思ってる。違うの? そっちは友達とも思ってくれていないんだ」
意地悪に口元を釣り上げる。
そんな表情が、パイにとっては女神にも感じられていたのだが。
「ありがとう。でも僕はきみと友達でいるつもりはない」
嬉し過ぎて、また少しツンデレが発生していた。
あまりにも嬉し過ぎて、少しだけドSモード突入であった。
予想外のパイの言葉に、墾田ちゃんは素直に傷付いてしまっていた。
「いつか、きみのことを嫁に迎えるんだから。今は友達でも、いつかきっと……」
頬を真っ赤に染めて、パイは言っていた。
言い終わるとあまりの恥ずかしさに、水色の髪で真っ赤な顔を隠してしまっていた。
「はいはい、わかったわ。待ってるから、精々頑張って頂戴ね」
パイが素直になればなるほど、墾田ちゃんは素直になれなかった。
本当は大好きなのに。
素っ気ない様子で、そう返すことしか出来なかった。
「うん、待っててね」
しかしそれもパイは気にしなかった。
「ありがとうございます。パイさんの好きな物が知れて、とても嬉しいです」
過酸化水素水は笑った。