こくご
「大丈夫ですよね、もう疑問は」
疲れ切った微笑みで、倒置はそう言った。
「大丈夫。だって、きみたちも何も知らない。それがわかったから」
悪気はなかった。
冷たい言い方にも冷たい言葉にも悪気はなかった。
「気分転換と行きましょう。厳しくないと思いますし、答えを無理には求めません。何が好きとか、教えて戴けませんか? 倒置さん、からでしょうかやはり」
笑顔でかあさんが提案した。
他の皆もそれに頷く。
「好きな物ですね、わかりました。いいのでしょうか、なんでも」
少しだけ子供らしく、倒置はかくっと首を傾げた。
動きは機械のようでもあった。
しかし、珍しく子供のような表情をしていた。
「はい。お好きな食べ物でも趣味でも、なんでもどうぞ。皆のことを知るのが大切だと思いますので」
微笑みではなく笑顔で、かあさんはそう言う。
「食べ物なら好きです、魚介類が。読書ですね、趣味は普通に」
素直に倒置はかあさんの質問に答えた。
色彩による質問とは違う。
優しい易しい質問だったから、素直に答えた。
「なるほどなるほど。じゃあ、どんな本が好きなの? 他のことも詳しく教えてよ」
歌うことすら忘れ、シャープは倒置に問い掛けた。
鼻息を荒くし、倒置に詰め寄った。
シャープがそんな様子だと言うのに、倒置は全く揺るがない。
引き攣らせたりすることもなく、微笑み続けていた。
「文学ですね、基本的に読むのは。しかし読みますよ、どんなジャンルでも。何を知りたいのですか? 他のこととは」
普段通りの微笑みで、普通に質問に答えていた。
普通に答えていたのだ。
が、あまりにもシャープが顔を近付けてくる。
それに苛立ちを覚え恥じらいを感じ、微笑んだまま手でシャープの顔を遠ざける。
そこまでされているのに、シャープだってめげない。
「教えて教えて。あなたのことなら、なんでもいいよぉぉお♩」
周りで見ている人たちはドン引きであった。
それでも二人は揺るがない。
倒置もシャープも揺るいだりしなかった。
「残念ですね、ごめんなさい。思い付きませんよ、あなたに教えることなんて」
倒置の小悪魔な微笑み。
「もういいですよね、終わりで」
騒ぐシャープのことなど気にせず、倒置は強制終了。
「ありがとうございます。倒置さんの好きな物が知れて、とても嬉しいです」
過酸化水素水は笑った。