ほけんたいく
「何して勝負するんだ? 最近遊んでなくて、楽しくない」
今まで全く話を聞いていなかったらしい。
取り乱した姿にも気付いていなかった。
他の人が何をしていたかなんて見ていなかった。
「どうして周りを見ないの?」
そう問い掛けたのは、色彩ではなくパイであった。
「どうゆうことだ? 周りくらいよく見てるぜ」
元気に笑顔で返すが、他に笑っている人はいなかった。
「どうして周りを見ないの?」
次に、色彩も問い掛けた。
自分自身も周りを見ることが苦手。
そう思っていた色彩だが、その理由が知りたかった。
どうして自分が周りを見られないのか知りたい。
そうも思って、色彩はそう問い掛けた。
自分が答えを知らないのだから、短距離走に対し無理に答えを求めるつもりはない。
しかし、知っているかもしれないと思い問い掛けたのだ。
「五月蝿いな。そうゆうのウザいんだけど。てかさ、さっきそれ聞かれたんだけど。見てないのお前の方じゃん。本気でウザい」
急に笑顔を消し、短距離走はそう返した。
「どうして? 先程聞かれたのは知っている。でも、答えが返らなかった。だからもう一度問い掛けたの。知らないの? 答えを知らないなら、はっきりそう言ってくれて構わない」
冷静に、冷静に色彩は言った。
短距離走が戸惑うくらい、冷静に冷淡に言った。
あの短距離走を戸惑わせるほどに、だ。
「知らないっ! んなの」
叫んで舌打ちをする。
そして慌てて走り出そうとするが、滑って転んでしまう。
もう、泣かんばかりの表情であった。
自分の担当教科すら、短距離走は完璧でいられなかった……。




