びじゅつ
「たくさん、疑問」
疑問は色彩の頭の中に次々湧いてくる。
しかし、誰に聞いていいのかもわからなかった。
どうしていいのかわからず、首を傾げていた。
この場で人と接してみて、彼女は初めて手に入れたのだ。
疑問。という名の感情を。
今まで絵を描くだけだった。
自分自身なんか知らなかった。
絵を描くのが当たり前。
絵を褒められるのだって、自分には才能があるんだから当たり前。
そんな考えだった。
「色彩さん、大丈夫ですか? わからないことは、たくさんあっていいのですよ。ほら、元気を出して下さい」
ミスターのその言葉に色彩は驚いた。
彼の言葉の優しさ。
そして、自分が元気を失っているということ。
「違う。それは違う」
しかしミスターにも、一つだけ残念な点があった。
色彩が元気を失っている理由だ。
「えっ? ごめんなさい」
彼の目ならば、よく観察すればわかる筈だった。
でもミスターはそれを拒む。
否定されてしまったことにより、再び自己嫌悪に陥ってしまった為だ。
「強くならないと。きみのことはわたしが守る。守るけど、守れないときもあるの。だから、きみがもっと強くならないと。わたしは甘やかしてばかりではいたくない。違うものは違う、違うものを正しいなんて言わない」
珍しく色彩は長々と言葉を発した。
珍しく色彩の言葉には他の人も気付くほどの感情が込められていた。
「ミーも強くなりたいとは思っているのです」
「それじゃだめ!」
うじうじするミスターに、色彩は怒鳴りつけるようにそう言った。
そんな色彩に、皆が驚愕した。
勿論ミスターも、色彩自身だって驚愕していた。
しかしパイだけは、驚く様子も見せずまっすぐ色彩のことを見つめていた。
「表情、十分表れているよ? 十分感情を知っているじゃないか」
やがて、パイは優しくそう言った。
「ほんと? 嬉しい」
色彩は、にこっと心から本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。