すーがく
「はぁあ、新しい企画何かないの? 結局昨日は遊んでただけだったじゃん」
悲しむ倒置に気付かず、遊び続けていたパイは言った。
彼も突出した天才だ。
しかし、感情を知っている。強い心を持っている。
だから問題ないのだ。
遊ぶことが出来る。楽しんだり、笑顔になったりすることが出来る。
「そんじゃあさ、お得意の計算を披露してよ。早くって、正確な暗算を。あれを見たら、少しだけど凄いとか思わざるを得ないもん」
墾田ちゃんがそう頼む。
そのお願いがパイは嬉しかった。
嬉しくて、自然とにやけてしまっていた。
カッコいいところを見せたい。
そんなことを思ってしまっていた。
「まあ、練習すればあたしでも出来ると思うけどね。天才的ってほどではないし」
挑発的な表情で、墾田ちゃんはそう言った。
「どうして強がるの?」
かんなにパソコンを借り、パイはフラッシュ暗算をしていた。
いかに優秀で正確か証明してやる為に、勿論最上級だ。
皆がそれに見入っている中、色彩は墾田ちゃんにそう問い掛けていた。
「何を言っているの? あたしには、全然わかんないよ」
元気な声ではあったけど、墾田ちゃんの声は自然と小さくなってしまっていた。
「どうして強がるの?」
色彩は今回もまた、同じ質問を繰り返した。
知らないことを知りたかった。
だから彼女は、質問を繰り返している。
彼女にとってはそれだけだが、聞かれる方は違う。
その質問により、思い出したくないことを思い出してしまう。考えたくないことを考えてしまう。
「強がってなんか、いないわよ。そうゆうの、ほんとやめてよね。あたし、今忙しいからさ」
無理に笑って、色彩を振り払おうとする。
「忙しい? 強がりに? でも、優秀なんだから優秀でいていいと思う。自らの実力がわかってこそ、優秀だと思う。無駄なことをする意味がわからない」
色彩は気付いていないのだ。
自分の言葉が相手を傷付けていることに。
素直に、わからないから問い掛けているだけなのだ。
「このあたしが、無駄なことをする訳ないじゃない。だってあたしはこんなにも可愛くて、こんなにも優秀で、こんなにも……。こんなにも……」
取り乱しながらも、必死に色彩から離れようとする。
しかし墾田ちゃんは動けなかった。
色彩の真っ直ぐな瞳に見つめられ、金縛りにでも遭ったかのようだった。
「こんなにも、何? 他には思い付かないんだ。どうして強がるの? わたしにはわからない」
その言葉に、墾田ちゃんは自分を抑えることが出来なかった。
今まではパイの邪魔にならないようにと小声で返していた。
それでも色彩の言葉で、遂に声を荒げてしまった。
「うっさい!! あたしはっ」
叫ぼうとする墾田ちゃん。
叫ぶことは出来ないけれど。
なぜなら、彼女の口が後ろから押さえられていたから。
彼女は瞬時にその手が誰のものなのか理解する。
そしていつの間にか、怒りではなく申し訳ない気持ちで満たされて行った。
「ごめん。あたしのせいで」
解放されるとすぐに、振り向いて墾田ちゃんは謝った。
誰にも見られず、いくつもの数字を映し続けるパソコン。
墾田ちゃんを落ち着かせる為、パイが墾田ちゃんの口を押さえたのだ。
「謝る必要はないよ。余計なこと言わないで」
優しい声でそう言って、優しく墾田ちゃんの頭を撫でる。
そして色彩を睨み付けると、低い声で言い残して元の場所に戻った。
「見てなかったからわかんないや。ははっ」
苦笑い気味のパイ。
自分の担当教科すら、パイは完璧でいられなかった……。