こくご
「もうやめましょう、あんな恥ずかしい提案。賢い人ではありません、恥を知らない人は」
やっと地獄の企画が終わった。とでも言うように、倒置は疲労し切ったような表情で溜め息を吐いた。
「それは考案者に少し失礼なんじゃないかなぁああ♩」
久しぶりに、シャープは言葉を歌で届けた。
前回の企画では歌う機会がほとんどなかった。
だから更にハイテンションな歌声である。
「どうして完璧を求めるの?」
シャープの歌声が響く中、色彩が小声でそう問い掛けた。
その声は誰の耳にも入らない。
質問をされた本人、つまり倒置以外には。
「プライドが高いのは理解出来る。だって優秀な人だから。でも、もう少し人間らしくしてもいいと思う」
彼女の小さな声は、倒置の心に響いた。
耳にしか響かないシャープの声とはものが違う。
「同じです、あなただって。気付いたではありませんか、だって。それに感情表現が少ないですよ、ぼくより」
他の誰にも聞こえない声で、天才二人は話していた。
お互いに近付こうと。近付きたくない、と。
この九人の中でも、倒置と色彩は”天才”に分類される二人だから。
「わかってる。でもわたしは知ってるよ? 感情を。それを表現するのが苦手なだけ。それに、わたしは隠したりしていない。だから全く同じという訳でもない」
”優秀な人”が遊んでいる裏で繰り広げられる”天才”の会話。
誰も気付かない、誰にも届かない、誰とも分け合えない。
いつも孤独だった天才の言葉。初めて出会う同じレベルの人との会話。
「どうして完璧を求めるの?」
最初の質問を色彩は繰り返す。
その質問は、倒置にとって悲しくて痛くて……。
言葉は専門教科の筈なのに、彼にはわからなかった。この質問に返すべき言葉が。
「嫌なんです、無能なぼくに戻るのが」
上手く説明出来なかった。
そして彼は、そんな自分が何より嫌いだった。
「無能? 前にも言っていたよね。どうして完璧を求めるの? わたしにはわからない」
繰り返される色彩の質問。
倒置は過去を思い出し、苦しんだ。
それでも彼は心を顔に映したくなかった。
微笑みを絶やさない。
悲しげな表情ではあるが、彼は微笑み続けていた。
むしろその表情は、泣きじゃくるよりも断然悲しい表情に見えるだろう。
「ふふっ」
微笑んだ倒置。
自分の担当教科すら、倒置は完璧でいられなかった……。