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ほけんたいく ~過酸化水素水は短距離走に恋をした~
「オレは……」
最後は短距離走。
本人もそれは最初からわかっていた。
しかし、何をするのかも考えていなかった。
「悩んでいて、いいのです。無理に決めなくていいではありませんか。その姿も素敵ですよ」
かあさんの言葉は本心ではない。
理科の勝利。
その為に一人でも落とそうと考えての言葉だ。
そんなこと、短距離走は思いもしないのだが。
「素敵か、ありがとよ」
素直に受け取り、素直に返した。
それを見て、かあさんは思った。
ヤル気はあるのか、と。
自分はバカにされているのか、と。
勿論彼にそのつもりはない。
ただ素直に、素敵と言われ喜んでいた。
「どうしたんだ? 難しい顔してさ」
不思議そうな顔。
無邪気で、子供らしい顔。
短距離走が浮かべるその表情が、かあさんにはわからなかった。
「私の知らない感情をたくさん、ありがとうございます。感謝していますよ」
短距離走は過酸化水素水をときめかせることが出来た。