ぎじゅつかていか ~かんなと玉結びは恋をしない~
「ときめかせるなんて、そんなの無理に決まってる。だって皆に、それぞれ気になる人がいるでしょ? おいらが入る場所はないんでよ。勝手にいちゃついてていいぜ」
かんなと玉結びは諦めモードだった。
確かに、誰もかんなのことも玉結びのことも想ってくれてなどいない。
本人が皆を遠ざけているから。
思ってくれる人はいても、想ってくれる人はいない。
「遠慮なく」
悲しむ顔を見て、色彩なりの気の遣い方であった。
無表情のまま、ミスターの手を握る。
彼の左手を、両手で包み込むようにして握る。
優しく、優しく……。
突然で、ミスターは驚いてしまう。
「どうしたの?」
理由などわかっていた。
それでも、わざとわからない振りをして問い掛けた。
愛しの彼の、可愛らしい姿を堪能したかったから。
手を握り微笑む自分が、照れ臭かったから。
無表情のままだなんて、彼女は夢にも思っていない。
「へ? あの、いや。嬉しいなって、幸せだなって」
恥じらい俯きながら、ミスターはそう言っていた。
それを見ている色彩は、自分もそれくらい恥じらっていると思っていた。
にやけていて気持ち悪いくらいだと自分では思っていた。
無表情のまま、顔を隠す結果となってしまったのだが。
「んんっ」
その後ろでは、もっと過激なものが繰り広げられていた。
「ただの味見のつもりだった。でも、これはまさに最高の味。欲しい。欲しい欲しい欲しい欲しい、奪いたい」
シャープは倒置のことを壁際にまで追いつめていた。
大きな瞳は、まっすぐシャープのことを見つめていた。
揺るぐこともなく、まっすぐに……。
「いけません、こんなところで」
倒置の言葉。
しかし、シャープは理性を保っているのが限界の様子。
どんどん彼に迫って行った。
「あっちに夢中で、誰もこっちは見ていないよ」
シャープの言うことは正しかった。
皆、色彩とミスターに夢中。
倒置とシャープがその場にいないことにも気付いていない。
「いけません、それでも」
愛おしそうに、シャープは倒置の唇を指でなぞる。
美しい唇を。
何にも例えられないほどに、柔らかく綺麗な唇を。
「潤いを手に入れたらですね、貴方の唇が。嫌ですよ、そんなカサカサの唇は」
気づかれる前に。
そう思った倒置は、シャープから逃げ出し他の人のところへ戻る。
いつものように、冷たく言い放ってから。
シャープだって、そう言われては傷付く。
彼女も手入れはしっかりしているし、相手は想い人だから。
しかし言い返せる筈がない。
あれだけ気持ち良い、極上の代物に触れさせて頂いたのだから。
「あっごめん」
一方、他ではちゃんと子供なやりとりをされていた。
「え、こちらこそ。申し訳ございません」
短距離走の手ががかあさんの手に当たってしまった。
そんなことで、二人して恥ずかしがっているのである。
もう一ペアも、子供らしくしていた。
子供らしく、天才らしくしていた。
「きゃっ。ちょっ、何してるのよ。ね、ねえ?」
色彩の行動を見て、パイも動いた。
耳まで真っ赤に染めながらも、墾田ちゃんの手を握る。
パイの柔らかい右手は、墾田ちゃんの綺麗な左手を優しく掴んでいた。
「本当に僕が一番なのか確かめたい」
そうは言うものの、恥ずかしくて行動には移せずにいた。
「あたしを疑ってるの? たった一度の勇気を」
不満気に墾田ちゃんはそう言った。
そして、掴まれていた手に力を込める。
パイの手の柔らかさに、幸せそうに微笑んだ。
パイの心の温かさに、幸せそうに微笑んだ。
「喜んで貰えているなら嬉しいわ。だぜ」
かんな&玉結びは皆をときめかせることが出来た。