びじゅつ ~ミスターエックスは色彩に恋をした~
「好き」
色彩の言葉は至ってシンプルであった。
「気に入ったの、きみのこと。本心だよ? 初恋、だよ」
この機会に告白してしまおうかと考えたのだ。
一目惚れをしたミスターに。
初めての恋を教えてくれたミスターに。
「うぇぇえ!? あ、うん。僕、今告白されたんですよね? え、えと」
戸惑うミスター。
彼だってとっくに気付いていた。
色彩の気持ちに、自分の気持ちに……。
それでも、振り絞ることが出来なかった勇気。
「嫌い? 答えを聞かせて」
不安気に色彩は問い掛けた。
彼女のその表情は、恋する乙女のものであった。
無表情なんかじゃなかった。
普段と違うその姿に、誰もが見惚れていただろう。
不安気で、でも微笑んでいて。
そんな表情を浮かべる色彩に、誰もが見惚れていただろう。
「そんな訳、ないじゃないですか。嫌いになれる訳、ないじゃないですか。優しいし可愛いし優秀だし、非の打ち所がないじゃないですか。あなたのような方、どうして嫌いになれましょうか」
キャラなんか関係なかった。
心からミスターは色彩に恋をしていた。
だから、恥ずかしがらずに本心で返した。
人前で”自分の言葉”を発するのは生まれて初めてであった。
ここまで堂々とはっきり喋るのは生まれて初めてであった。
二人とも、嬉しさで満たされていた。
瞳を潤ませ、最高の笑顔を浮かべていた。
「あなたのおかげで、僕は……」
色彩はミスターエックスをときめかせることが出来た。