りか ~短距離走は過酸化水素水に恋をした~
「理科で考えようとしても、数学に寄って行ってしまいます。何か理科らしい良い案はないでしょうか」
考え続けたが、最高の答えは浮かんでこなかったらしい。
なぜなら、かあさんは賢い人だから。
あまりそうゆうのは考えてもわからないのだ。
「蔓で、攻め。触手攻め。どちらがいいだろうか」
突然色彩がそんなことを言い出す。
その言葉に皆はポカンと口を開けていた。
一人を除いて……。
「火山とか、その辺は受けな気がするよね。それと、シャーレって絶対受けだと思う」
楽しそうに墾田ちゃんも言い出す。
その言葉で、数人は理解することが出来た。
しかし、まだ首を傾げている人はいる。
「ああ、わかる。理科、すてき。でも、やっぱそこは社会だよ」
色彩と墾田ちゃんで勝手に盛り上がっている状態だ。
他の人は取り残されてしまっている。
「そう? ありがとう。美術も魅力的だと思うわよ。ちょっと、高度なところもあるけどね。簡単そうに見えて上級者向けじゃない」
「社会は乙女向け。妄想力次第だもの。美術は、もっとストレート」
意気投合して、二人とも嬉しくて仕方がなかった。
もう、元の企画なんて関係ない。
ただ二人が勝手に盛り上がっている。
「それで、どうすればよろしいのでしょう。シャーレっぽくすれば、ときめくのですか? 少なくとも私は、シャーレはとても素晴らしいものだと思いますが……。他の方もそう思って下さるのでしょうか」
かあさん自身は、実験器具が大好きである。
しかし彼女はちゃんとわかっているのだ。
自分が好きだからと言って、他の人もそうである訳ではないと。
「うーん、それは違う。シャーレじゃ」
「一旦ストップ。その先は言うものじゃないデス」
色彩はかあさんにアドバイスをしようとした。
それをミスターが慌てて止める。
彼には言いたいことがなんとなく伝わっていたから。
「健全な女の子だよ」
ミスターのその言葉を聞いて、色彩は自らの失態に気付く。
「ごめん。まだ、セーフだよね」
幸い、色彩の気持ちが伝わったのは同志のみ。
だから大きな問題は生じなかった。
周りの様子でそうわかり、色彩はとりあえず一安心。
「どうすればいいのでしょう」
全く伝わらなかったかあさんは、まだ悩んでいた。
「ほら、賢いじゃん。だから、悩んでるようなとこあんま見ないし。普通で、可愛いと思うぜ」
過酸化水素水は短距離走をときめかせることが出来た。