すーがく ~墾田永年私財法はパイに恋をした~
「きみと一緒にいるときの僕は可笑しい。なぜでしょう、きみのせいで僕の計算は滅茶苦茶です」
事前に用意してあった台詞ではないらしく、多少考える時間を要していた。
迷いながら、恥じらいながらパイは必死に言い遂げる。
それだけで彼はもう全て終わったと言った感じだ。
「うん。そうゆう感じ、いいと思うよ。でも、ときめかせるならそれは逆かも」
優秀なアドバイサー、墾田ちゃんが指摘した。
しかし、パイを含む殆んどの人が”逆”の意味を理解していなかった。
「完璧な君の計算も、いつか狂わせちゃうんだから。とか、こんな感じじゃない? 自分よりも、相手の得意を言った方がいいからさ。基本」
ときめかせるなら。
そのお手本として放たれた墾田ちゃんのその言葉。
それなのに、墾田ちゃんの言い方にはときめかせようという気持ちなど微塵も感じられない。
普段通りのトーンで、至って落ち着いた言い方だった。
その上、驚くほど棒読みなのである。
「へー、なるほど。墾田ちゃん、相手になって貰ってもいい……かな? だって、特定の人に向けた言葉にせざるを得ないじゃん。皆が得意なんてないからさ」
顔を真っ赤にしながらも、パイはお願いした。
”本当に好き”な墾田ちゃんに言うのは恥ずかしかった。
しかし、他に頼めるほど仲のいい人が思い付かなかった。
墾田永年私財法に告白の演技をする。
他の代表たちに告白の演技をする。
どちらの方が恥ずかしいかパイの中で天秤に掛けられた。
そして人見知りの彼はそんな結論を出したのだ。
「そうね。どうしてもあたしがいいってんなら、いいわよ」
墾田ちゃんの方も、恥ずかしさでいっぱいであった。
「え、えっと……。僕は、きみの中の一番になりたい。新撰組の沖田さんだっけ? よりも上になりたい。だって、何であっても僕より上にいるのは嫌だから。僕はきみの中の一番になりたいからっ」
最初は迷い恥じらい話していたパイ。
それでも途中からは、勢いだけで喋っている感じであった。
「なんで知ってるの? あたし、誰が好きとか言ったっけ」
パイの言葉を聞き、墾田ちゃんは驚いていた。
ゲームを作ったのだから、幕末好きということは知っているかもしれない。
しかし、誰が一番好きなのかまで知っているとは思わなかったのだ。
「人、間違ってる? 歴史の人とかわからなくて……」
平然を装うパイの顔は茹でたタコよりもずっと真っ赤である。
言い終わってから、猛烈な恥ずかしさに襲われたのだ。
「いや、あってるよ。あたしが一番好きなキャラ。嘘? 知ってるってことは、あたしが言ったってことだよね。無意識のうちに変なこと言っちゃったりしてた? あたし」
わざと嬉しさの上に不安を貼っていた。
他の気持ちを持たないと、嬉しさに占領されてしまうから。
つい顔がにやけていってしまうから。
「ゲームをやって、そうなのかな? って思ったんだ。自信はなかったけどさ。他のキャラと大きな違いはなかったけど、ちょっと思ったの。墾田ちゃんは、好きなものをこう表現するだろうな……って」
彼の賢さと観察力、それに推理力があったからわかったものだ。
「そっか、ありがと。なんか、そうゆうの凄い嬉しいよ」
パイは墾田永年私財法をときめかせることが出来た。