すーがく
「数学が一番人気だね」
今度はパイが語り始める。
その言葉に倒置は再び自信を無くしてしまっていた。
しかし逆に、自信満々で笑っている少女もいた。
「誰も数学が好きな人なんていない。もう主張は終わりでいいわよね? ふん」
墾田永年私財法だった。
「人の話を聞かないと嫌われちゃうよ。こんだん……、なんとかさんよ」
素直に凹んでいるパイを見かねて、玉結びとかんなは言う。
「バカじゃないの? あたしが嫌われる訳ないじゃん。てかこのあたしの名前を覚えていないとでも? 信じらんない」
しかし、こんだん……なんとかの自信も結構な物だった。
「数学が一番人気なんだっ!」
再び文句を言おうとするので、パイは精一杯叫んだ。
意見を言おうとする無邪気なその姿を見て、さすがに黙ってくれたらしい。
「理数系の人って、頭が良い気がするでしょ? つまり頭が良いのは、理科と数学ってことだよ」
かなり失礼な理論だった。
まるで他は頭がよくないとでも言うようで、更に怒りを買ってしまう。
しかし、これで喜ぶ人も勿論いる。
「ありがとうございます」
嬉しそうに微笑むかあさん。
彼女のおかげで、その場の空気が一気に和んだことだろう。
「それに、数学がなければ何も出来ないよ? 買い物も出来ないし、建築物を作ることだって出来ないね」
やはりそれで腹を立てる者も、傷付く者もいた。
そんなこと気付きもせず、パイはそのまま続ける。
「ここまで言えばわかるでしょ?」
随分見下した言い方だった。
しかし彼に悪気はなかった。仕方がないのだ。
パイは疑うことなく本当に心から思っているのだから。
賢いのは理数系である人間だと。
だから無意識に怒りを買ってしまうのであった。
「数学がないと快適には生きられないの」
それがパイによる、最初の主張であった。