ぎじゅつかていか
「批判してみなよ。ぶちのめしてやる」
怒り? 真意はわからないが、かんなは恐ろしい形相を浮かべている。
玉結びだってお怒りのご様子だった。
「じゃあ聞くけど、技術の使い道は? 僕みたいに頭が優れた人には必要なじゃん」
自信を持って言っているが、パイは涙目である。
前回の倒置の言葉、まだ気にしているのである。
二次元を纏めて否定された気がして。
それはつまり、自分自身を否定された気がして。彼はまだ気にしていた。
数学という、人より何倍も優れたものを持っていることを忘れて。
「パソコンは確かに使うかもだけどさ。そんなの、学ばなくても大丈夫だし」
一方、倒置も前回のことをまだ引き摺っていた。
”無能”という色彩の言葉。
その言葉で嫌な過去を思い出し、彼は今回は参加出来そうもなかった。
あれから、ずっと俯き考え続けていたから。
「そう! 技術は娯楽だ。勉強の息抜き、みたいなもんだろ」
前回のことを引き摺り、今回に集中していない。
そんな人が何人もいると言うのに、かんなは気にするような素振りを見せない。
気にしていないのか、隠しているのか。
「は? 感じ方の違いだね。まるで数学が辛いみたいな言い方しないでよ。それは個人の感想、誰でもそう思う訳じゃないよ」
パイの戦う姿に、墾田ちゃんは一人感動していた。
本当は落ち込んでいるくせに。
頭が良いだけに、考えてしまっているくせに。
それなのに、他の人が喋らないから。
そして思った。
そして感じた。
それは、彼女にとって初めての感情。
パイのことを守ってあげないと。
「えー? 数学は苦痛だと思うけどな」
最初の頃と同じように、どうでもいい言い合いを繰り広げよう。
そうすれば、誰かが止めに入る筈だ。
その後はその人に任せちゃお。
時間稼ぎにもなるし、怪我も少なくて済むだろう。
「だから、それは個人の意見でしょ? 出来ないから嫌いなだけ」
「うっさいな! あたしが出来ない? 何言ってるのよ」
どうでもいい、本当にでもいい言い合いを繰り広げた。
これ以上パイを傷付けない為に。
「落ち着いて下さい。今は技術家庭科についてですよ? 数学の話などしておりません」
案の定、いい子ぶって止める奴が現れた。
墾田ちゃんはニヤリと笑う。
しかし、かあさんがそんなに単純な筈もなかった。
彼女はわかっていた。
墾田ちゃんの思惑が……。
だから思ってしまっていた。
計算を狂わせてやりたいと。
「まあまあ、皆落ち着こうぜ。技術家庭科使うじゃんか。それで良くね? ケンカはやめろって」
止めに入ったのは短距離走。
彼としては、かあさんを助ける為の行動のつもりであった。
彼には、かあさんが困っているように見えていたから。
しかしそれがかあさんの計算を狂わせる。
計画を練り終えた頃のかあさん。
だから彼女は行動を開始しようと思っていた。
そんなとき丁度、短距離走がそう言い出してしまったのだ。
「そうよ。そうだよな。技術使うじゃん、家庭科使うよね。何か他にあるのかい? ないよな」
一人で確定するかんな&玉結びに、それ以上誰も何も言えなかった。
かんな&玉結びは説得に成功し、優秀さを証明した。