びじゅつ
「批判? どうぞ」
普段の無表情で色彩は言う。
そんな彼女の態度に、批判しづらいと感じていた。
彼女は全くぶれなかったから。
彼女を説得出来るような気がしなかったから。
「萌えが足りません。美術の授業でも、美少女イラストとか使うべきです。そっちの方が楽しく授業を受けることが出来ます」
そう言ったのはミスターである。
あれだけ色彩に庇って貰ったくせに。
それなのに、他の人はそう思った。
しかし、色彩はわかっている。
彼の優しさと努力がわかっている。
彼の優しさと勇気がわかっている。
「いいよ? 注文してくれれば、わたしは用意する。直接言ってくれれば、それぞれの希望。ちゃんと用意する」
色彩は迷った。
ミスターの勇気にちゃんと応えようか。
そして彼女は結局、勇気に勇気で返すことが出来なかった。
優しくする振りをして、ミスターの勇気を無駄にした。それがわかっている色彩は苦しんだ。
それでも、彼女には言えなかった。
ミスターを傷付けるようなこと……。
「授業になりません、そんなの。美術作品です、学ぶべきは。漫画を許可するようなもの、国語で」
倒置が言った。
ミスターの勇気が水の泡になったから。
だから、倒置は続けてしまう。倒置に言わせてしまう。
ミスターも色彩も、互いに申し訳ないと思っていた。
「ラノベは、許可? 文字だし」
色彩はぶれない。
彼女自身が無表情を懸命に装っている、訳ではないから。
「なんですか、ラノベって」
論外である。
文学少年的倒置は、存在自体を知らなかったのである。
その言葉には数名がショックを受ける。
「知らないの? リア充なのか真面目ちゃんなのか」
悪びれる様子もない倒置に、パイは傷付いた。
励ましに向かう。
同じくガラスのハートを傷付けられた、豆腐メンタル仲間のミスターが。
「ごめん。まさか、知らないとは。傷付けてしまった、ごめん」
悪いとは思っていない倒置。
そもそも、倒置は悪いことをしていないのだから当然だ。
だから、色彩が罪の意識を感じてしまう。
「ううん。謝らないで結構、逆に傷付くから」
パイのハートは、色彩の予想以上に繊細であった。
パイのハートは、色彩の予想以上に壊れやすかった。
「絵、作品。授業は出来る。出来ない人が無能、それだけ」
これ以上余計なことをして、彼らをもう傷付けちゃいけない。
そう思い、色彩は話を元に戻した。
色彩が気に入ったのはミスターである。
彼女は、気に入ったもの以外に容赦などない。
「無能ですか、なるほど。今度やってみましょう、授業に漫画。嫌ですから、無能なぼくに戻るのは」
周りの人を悲しくさせるほど、倒置は悲しげな微笑みを浮かべていた。
それを隠す為か、倒置は俯いてしまう。
綺麗な髪が風で靡く。
窓は全て閉まられて、風なんか吹いて来る筈がないのに……。
「他には」
それでも尚無表情な色彩に、それ以上誰も何も言えなかった。
色彩は説得に成功し、優秀さを証明した。