おんがく
「音楽は皆大好きでしょぉお♩」
シャープの言っていることは、最初から全く変わっていない。
音楽を嫌いな人なんていない。
本当に心から自信を持ってそう言えた。
だから、最初から揺るがないのだ。
ずっと歌い続けているのだ。
「嫌いだって何回言ったらわかるのよ。歌も楽器も嫌い」
墾田ちゃんも揺るがなかった。
言葉だけを聞けば、揺るいでいないように見えた。
しかし、彼女の変化を彼は見抜いている。
「でも歌、可愛かったよ。さすがだなって、思ったよ」
恥らう表情を見せながらも、彼は素直に答える。
どうして素直になれなかったのか。
その理由がもうわかっているから。
だからパイは素直になれた。
「五月蝿い。五月蝿い、嫌い。だから、音楽嫌い。音は嫌い」
墾田ちゃんはこれ以上続けられないと悟る。
それに続けるかのように、色彩は言い出した。
無表情なだけに、嫌な表情をされるよりもシャープは嫌だった。
表現が少ない人を、彼女は好まなかった。
というよりも、苦手で仕方がなかった。
「芸術がわかるのでしょう? なら音楽の魅力もわかる筈、見損なったね」
五月蝿い。
そう言われてしまったので、とりあえず歌うのをやめた。
一応気にしているのだ。
「結構。見損なって結構。でも、一緒にしないで欲しい。静かに楽しむ、芸術」
珍しく色彩の表情は不機嫌そうにも見えた。
そう。
微かにだが、表情に出るほど色彩は不機嫌であったのだ。
「耳が腐っているの? だから芸術を目でしか楽しめないのよ」
シャープは強気に出た。
色彩に対して……。
あの、色彩に対して……。
「目じゃない。楽しむは、心。腐ってるのは、そちら。耳が必要? いらないよ、わたしは」
無表情な色彩。
だから終える。諦めたんだ。
「ごめんなさい……」
シャープは自分の教科の非を認めることで、優秀さを証明した。