こくご
「相手を落とせばいいんじゃん。そうすれば、自分が一番になれるでしょ? 批判するクズ共を説得するのも優秀な証拠だしさ」
そう提案する墾田ちゃんは、冷たい表情をしていた。
その意見を批判する人は、意外にも誰一人いなかった。
自分が優秀さを証明してやる。その決意の為だ。
「批判をお受け致しましょう、まずはぼくが」
ニヤッと笑い、倒置がそう言った。
不気味な表情に、誰も咄嗟には批判が出来なかった。
だから提案者の墾田ちゃんが言い始める。
「国語とか、絶対好かれる訳なくない? 文字書いてばっかで怠いし眠いし。多分皆そう思ってるんじゃないかな」
決して自分はそう思っていないのだが、墾田ちゃんはそう言った。
彼女自身は国語が好きなんだが、自分で提案したものなのでとそう言った。
しかし倒置は、説得に入ろうと試みもしなかった。
批判に対して、言い返してやろう考える。
「国語力に欠けていますね、かなり」
続けようかと思ったが、そこで一旦止めた。
そしてただ無言で、蔑むような視線を向けていた。
だって彼は”バカ”の存在を知っている優秀な”天才”だから。
だって彼は、墾田ちゃんが”バカ”じゃないとわかっていたから。
「正直さ、国語なんていらないよ。僕の生き方に国語を必要とする場面はないね」
素直なパイも、批判する言葉がすぐには思い付かなかった。
しかし、墾田ちゃんを守る為にそう言った。
倒置の視線に墾田ちゃんは心を痛めていたから。
それに、気付いたから……。
「どんな生き方するんですか、信じられません。使わないんですか、言葉」
今度はパイに視線を移す。
冷たい表情のまま、倒置はパイを見た。
「いらないよ。どうせコミュ力がなければ国語力があっても何も出来ないもん。だから、国語力なんていらないよ」
寂しげな表情で、そう言うパイ。
それは最早国語の批判ではなかった。
だから彼にとってもかなり痛かった。
豆腐メンタルな彼が、それに耐えられる筈がなかった。
倒置から向けられる冷たい視線に。
「つまんないよな、国語ってさ。文字ばっかりで頭がくらくらするんだ」
そう言い出すのは短距離走。
彼は墾田ちゃんと違う。
正真正銘、本物の”バカ”であった。
「そんなのわかりますよ、顔を見れば」
低い小さな声で、倒置はそう返した。
しかしそんなことで短距離走はめげない。
そんなことを気にする筈がない。倒置の言葉が通じる筈がない。
「芸術は、心で感じるの。決して、文字など必要としない。説明文など、邪魔なだけ」
色彩のものは、批判とは思い難かった。
だからこそ、倒置も対応に困ったのだ。
「そうですね、あなたやぼくにとっては。しかし違います、他は」
今までの冷たい表情が、一気に温かく変わっていた。
倒置には、色彩を否定するつもりなどなかったのだ。
だからこそ、倒置は丁寧に説得に入った。
「わからない人も大勢います、芸術が。理解したつもりをするんです、文章を読み」
微笑んでいるように見えたが、倒置の表情は冷たい。
色彩に向ける表情は温かかった。
しかし、他に向けている表情は冷たかった。
「何かありますか? 他に」
冷淡に構える倒置に、それ以上誰も何も言えなかった。
倒置は説得に成功し、優秀さを証明した。