ぎじゅつかていか
「何か作ろうぜ? 木とかいっぱい持って来たからよっ」
楽しそうに、かんなは立っていた。
木材の山の前で。その量には、誰もが唖然とした。
軽トラック一台分くらいはゆうにあっただろう。
「何作りたい? おいらと一緒に作ろう。なんでも言ってくれ」
それに興味を示したのは短距離走ただ一人であった。
しかし、かんなもそんなこと想定内であった。
まさかそれだけしか用意していないなんてことある筈がない。
「パソコンも持って来たんだ。好きに使っていいぜ」
その言葉には、何人か反応する人がいた。
「お言葉に甘えさせて貰うよ」
まず、パイが喰い付いた。
それに続いて、かあさんとミスターも。シャープまでもがパソコンの前に。
「お料理どう? 裁縫もいいよ。他にも一応あるけど、別にやらなくてもいいよね……」
基本的に調理道具と裁縫セットしか持って来ていない。
しかし慎重な彼女は、他にも用意してはいたのだ。
「どうぞどうぞ、好きに使って。何か困ったことがあったら、私を呼んでね」
玉結びは、かんなとして短距離走に付いていなければならない。
体は一つしかないから、そうせざるを得ない。
だから、用意だけして去って行ったのだ。
「何かお菓子作ったりとかしたいんだけど。作り方とか、教えて貰えない……かな」
玉結びが行ってしまい、墾田ちゃんは戸惑っていた。
知っているレシピは結構ある。
しかしその通りに作ることが出来ない。
だから、教えて貰いながら作ろうと思っていたのだ。
彼女の小さな声は、玉結びに届かなかった。
「あの……」
どうしようかと墾田ちゃんは迷う。
大声で言いたくはない。
パイに聞えてしまうのが嫌だから。
でも、教わらないと作れない。
お菓子を作って女子らしくしたい。
どうしようかと墾田ちゃんは迷う。
「ぼくも一緒に、宜しければ」
その姿を見て、倒置は裁縫セットを置き話し掛けた。
元々何かを編むとか縫うとか、そうして過ごすつもりだった。
彼はそちらの方が好きだったから。
しかし、墾田ちゃんを見捨てる気にはなれなかった。
彼女の表情に自信がなかったから。
「一応出来ると思います、簡単なものなら」
倒置に話し掛けられ驚いたが、墾田ちゃんは必死に返す。
人見知りしながらも恥じらいながらも、必死に返した。
「ありがと」
お礼の言葉を。
普段の墾田ちゃんとは違う表情であった。
自信なんてない。ただ、素直な乙女の表情であった。
倒置に教わり、墾田ちゃんは色々なお菓子を作った。
不器用な彼女なりに、一生懸命に。
色彩は一人、黙々と作業をしていた。
一日中、何かを縫っていた。
他の人には目もくれず、ただ黙々と作業をしていた。
「さすがはあたしね。上達が早過ぎて困っちゃう。特別に食べてもいいよ? ふっふん」
胸を張って、墾田ちゃんは皆に差し出した。
黒焦げのクッキーからマカロンまでの全てを。
その成長ぶりには、確かに誰もが驚いた。
「ん、美味しいじゃん。うん」
パイは片っ端から食べていった。
全種類食べ終え、素直な笑顔でそう言った。
「そう? まあ、当然よね」
本当は嬉しいのに、墾田ちゃんはそう言っていた。
ほんのり赤く染まる頬を手で隠して、高笑いをしていた。
「これ、あげる」
皆が二人を微笑ましく見ている中、色彩は違った。
ゲームに夢中なミスターの元へ行き、そう言った。
彼女の手に握られているのは、麦わら帽子であった。どうやって作ったのかは定かではなかったが、彼女は確かに麦わら帽子を持っていた。
「これから、日本は暑くなる。白い肌、守って」
そんなことを言われてしまっては、ミスターもゲームの手を止めるしかない。
「僕にくれるんですか? ありがとう、ありがとうございます」
キャラを演じるのも忘れ、ミスターはただ笑っていた。
嬉しそうに、心から嬉しそうに笑っていた。
「それだけ」
無表情の色彩が、少し恥ずかしそうに笑っていた。
ミスターの目にはそう映っていた。
顔が赤くなっていくのを感じ、色彩はミスターにそれを押し付けると走り去った。
恥ずかしがる顔を見られたくなくて。
恥ずかしがる自分の姿に驚いて、走り出していた。
「よかったら、使ってくれよ」
短距離走は、墾田ちゃんの元からかあさんを呼び出しそう言った。
木を釘でいくつか止めてあるだけ、それが何なのかもわからなかった。
「本、好きなんだろ? だから、役に立つものをって思って」
その言葉でかあさんは理解する。
自分の為に、短距離走は本棚を作ってくれたのだ。
それは使えるようなものではなかった。
しかし彼女にとっては、どんなものよりもそれが嬉しかった。その気持ちが嬉しかった。
「ありがとうございます。大切に使わせて頂きますね」
それを受け取ると、かあさんは満面の笑みを浮かべた。
心からの笑顔を短距離走に向けていた。
それが、短距離走も嬉しかった。
自然と二人とも笑顔になっていく。
釘が少し飛び出ていて、抱き締めている手が少し痛かった。
しかしそんなことも気にせず、かあさんは笑っていた。
恋する少年少女たちに、かんな&玉結びは楽しい時間を提供した。
「技術最高よ」
「家庭科最高だぜ」
かんな&玉結びによる技術家庭科の魅力紹介は、かんな&玉結びの声で幕を閉じた。