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あなたはどのきょーかがすき?  作者: ひなた
みりょくしょーかい
22/189

すーがく

「面白いものを紹介するよ。かなりお勧めだね」


 そう言ってパイが用意したのはプリントの山であった。


 全てぎっしり数字で埋め尽くされていた。

 しかし彼にとってはそれが”面白いもの”だったのだ。


「ごめん。数字アレルギーなんで」


 短距離走は一瞬で逃亡した。


 それに、パイは首を傾げていた。

 とても素直に、不思議そうに首を傾げていた。


 どうして逃げたのかがわからなかった。

 どうして皆が喜ぶ様子を見せないのがわからなかった。


「これ、作っても宜しいのでしょうか」


 そんな中、かあさんだけは大喜びだった。


 楽しそうにプリントを一枚一枚チェックしていく。


「うん、いいよ。どれでも好きにどうぞ」


 その反応にパイは満足する。

 皆は素直じゃないだけだ。そう思ってしまった。


「やったー! ありがとうございますっ!」


 数枚だけ引き抜き、かあさんは皆と距離を取る。

 そして、集中して作業を始めてしまった。


 残された人たちはただ戸惑っていた。


 どうしたらいいのかわからなかった。


 パイを無駄に傷付けたくはないけれど、かあさんみたいに喜べはしない。

 親切ぶっているバカには、パイの対処法なんてわかる筈がなかった。


 だって、避け続けて来たから。

 自分の無能さを隠す為に、天才のことを避け続けて来たから。


 しかし、同じ天才だからと言って対処法を心得ている訳ではない。


 なぜなら、天才は人と接すること自体を得意としないからだ。


「こんなの面白くなーい!」


 墾田ちゃんのその言葉に、皆は助かったかと思った。


 一瞬思わせたけど、墾田ちゃんは皆を救ったりなんかしなかった。

 だって墾田ちゃんは秀才だったから。天才ではないけど、バカでもないから。


「面白くないけど、これ貰ってもいい? こんなの勧めるとか、信じられなと思うけど。でもいいよね、別に」


 素直に言いたくなかっただけ。

 それだけで、墾田ちゃんも興味津々だった。


 自分の好みにあったものを。

 そう思って一度全てに目を通していた。だから静かだったのだ。


 そしてそれを見つけることが出来た。


「うん、勿論だよ。完成品、僕にも見せてね」


 墾田ちゃんの行動により、皆素直じゃないだけ。

 パイはそう信じて疑わなくなってしまった。


「わかった。しょうがないなー、あたしの才能見せ付けてあげる」


 最後パイにウィンクを決め、墾田ちゃんも数枚だけ引き抜き去って行く。


 誰もいないところで、集中して作業を始めてしまう。


「きゃー! 凄いです、何これ。下さい、欲しいです」


 皆が戸惑う中、倒置の悲鳴が響き渡った。


 そのせいで、更に戸惑ってしまう。

 驚き一斉に倒置の方を向く。


「どうぞ? それ、頑張って入手したんだよ。欲しがると思ってさ」


 倒置は、パイに何度も頭を下げる。


 今まで誰も見たことのない、満面の笑みを浮かべていた。

 子供っぽい表情で、本当に心から嬉しそうにしていた。


「ありがとうございますっ!! それではっ!」


 叫び過ぎて、倒置は最早声が裏返ってしまっている。


 しかし、そんなこと気にしなかった。

 ただ嬉しそうにしている。


 倒置は一枚のプリントを大事そうに抱え、笑顔で走り去っていった。


 彼も誰もいないところまで行き、静かに作業を始めてしまった。


「残った人たちも、好きに持ってっていいよ? 遠慮はいらないから」


 まさか興味がないなんて、パイは考えもしなかった。

 天才は凡人の気持ちなんてわからない。


 秀才の気持ちを理解することで限界だった。

 バカの気持ちだなんて、天才にわかる筈がない。


「ほんと? ありがとう」


 色彩も、興味のあるものを見つけたらしい。


 微妙に嬉しそうな表情をしていた。

 普段無表情なだけに、その表情がパイにはとても嬉しかった。


「これ、貰うね」


 数枚だけ引き抜いて、その場にペタッと座ってしまう。


 そして、周りなど気にせず何かを描き出した。


 天才や秀才たちに、パイは楽しい時間を提供した。


「数学最高っ!」


 パイよる数学の魅力紹介は、墾田永年私財法の声で幕を閉じた。

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