技術家庭科
「ただいま帰りました。聖夜です」
家が遠かった為、聖夜が家に帰る頃にはもう外が暗くなっていた。
一人で電車やバスやに揺られていたが、彼は寂しくなかった。
魔法の効果のおかげで、目を閉じれば隣に徹がいるような気がしたからだ。
玄関でもう一度目を閉じて、徹に励まして貰う。
そうして勇気を出すと、礼をして両親の元へと向かった。
「申し訳ございません。恋などに現を抜かし、勝負に集中することが出来ないなんて……。この敗北、私は」
少し怯えたような表情で、聖夜は言い訳をつらつらと並べる。
しかし暗闇の中に、顔を歪める父の姿に口を閉ざした。
母が持って来た座布団に、聖夜は綺麗に正座する。
机を挟んで両親も正座し、母は薄暗い明かりを灯した。
「櫻田家の恥晒しめ! 名門は敗北することなどないのだ。それはたとえ、どんな理由があろうともな」
父の怒鳴り声に、聖夜は目を潤める。
「何も、恋をすることが悪いとは言わないわ。恋など、なんて言わないで頂戴」
優しい声でそう言った母は、深呼吸して今度は強く言う。
「恋のせいにしないで! そんなのは、自分の敗因を徹くんだと言っているようなものだわ! 貴方の行動、ずっと見ていたわよ。貴方自身の弱さ、貴方自身の力不足。廃れ切ったその精神も鍛え直しましょう」
強い母の言葉に、聖夜は涙を拭いて頷いた。
目から溢れそうになる涙を、彼は零れぬようにと必死に拭う。
それが頬を伝えば、徹のくれた魔法も落ちてしまうような気がしたから。
徹が守ってくれる。
そう思い、聖夜は強く決意する。
もっと強くなる。
いつか、幸せだった日々を思い出と笑えるようにと。
「父上母上、私は間違っていたようです。しかし今、目が覚めました。櫻田家の名に恥じぬよう、努力を重ねたいと思います」
父と母を順に見て、聖夜は頭を下げた。
その表情は強くなりたいと願う、美しくありたいと思う、聖夜自身の表情だった。