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理科&保健体育

「申し訳ございません」


 久しぶりに優唯は帰宅する。

 待っている、と仲間(・・)に言われてしまったのだから、そうすることしか出来なかった。


 しかしあまりに彼女が恐れている様子なので、啓太も優唯に付き添った。


 目的は三つ。

 彼女の恐れを和らげること。挨拶をすること。


 そして、彼女を守ること。


「ここはお前の帰る場所なんだろ? 謝ることなんてない。ほれ、堂々と歩けばいいんだ」


 そう言って、啓太は優唯の前を堂々と歩いて行った。


「ねえ、優唯ちゃぁん? どう言うことかな。暢気に男連れ込んで笑ってんじゃねぇよ、元天才ちゃんやい」


 そんな二人の前に、一人の男が現れた。


 男は、ぎろりと優唯を睨み付ける。

 それだけで優唯の覚悟は粉々に崩れ去り、頭を隠すように土下座をし、必死に謝り始めてしまった。


 それほどまでに、その男は彼女にとって恐ろしい存在だったのだ。


「何言ってんだよ。優唯はな、優唯は本当に素敵な女の子なんだよっ! お前なんかにはわからないだろうけど、世界一の頑張り屋さんだ。お前がそう言うんだったら、オレが優唯を貰って行く」


 怯える優唯を見て、啓太は咄嗟に叫び出していた。


 怒り怒鳴る彼の声を、優唯は初めて聞いた。


 だからそれが自分を守ってくれるものと知っていても、恐ろしく思えて仕方がなかった。


 何もかもが恐ろしくて、彼女は頭を抱え震える。

 恐怖心に逆らうことが出来ず、彼女は涙を零していた。


 そんな彼女の姿を見ていられなくて、啓太は更に怒りが込み上げてくる。


 怒ることにより、少しでも彼女の怯える姿を見ないようにしていた。


 それが、優唯を更に怯えさせていることにだって気付いていた筈なのに……。


「はぁ? これは俺様が見つけた子供だ。今回はクズみてぇな結果持ち帰ってきたけんど、そりゃ選んでる奴が目ん玉ついてねぇのかもしんね。それに、それに……。優唯が頑張り屋だってことは俺が一番知ってんだよっ!」


 腹を立て、怒鳴り付ける男の言葉に啓太は驚いた。

 優唯も驚愕し、つい顔を上げてしまう。


 その顔はいつもと変わらず怒りに満ちていて、恐ろしくて……。

 それでもなんだか、今は優しいようにも感じられた。


「俺は優唯を泣かせてばかりで、守ってやれなかった。だからお前が優唯を幸せに出来るんなら、さっさと貰ってってくれよ。代わりに、俺が泣かせた分も優唯を幸せにしなきゃ殺すかんな」


 照れ臭そうに吐き捨てるようにそう言って、男は二人の前を去った。


 二人には必死に隠していたが、男の頬には涙が伝っていた。

 それは、優唯に対する最後の優しさだった。



「ただいま」


 未だに放心状態の優唯を連れ、啓太は帰宅した。


「おかえり。……啓太、良かったな。俺は寂しかったのに、啓太は寂しい思いをしなかったそうじゃないか。父親として、最後のプレゼントだと思ってくれ。優唯ちゃんと幸せになるんだぞ」


 啓太が何を言う前から、父はそう言って優しい微笑みを浮かべた。


 その人はとても鋭い人であったのだ。

 鈍い啓太では、自分自身ですら気付けない変化にも鋭く気付く。


 そんな子供をよく見ている、敏感な人であったのだ。


「ああ! オレ、絶対幸せにしてみせるぜ」


 そう言って、啓太は父親と優唯、次いで奥に見えた母親にも元気な笑顔を見せた。

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