社会&数学
「たっだいま」
嬉しそうな笑顔で、有紗は帰宅。
扉を思い切り開け放った。
「有紗ちゅわ~ん! さすがだね。有紗ちゃんの頑張り、お父さんはずっと見てたよ。圧倒的な大優勝だったね」
有紗の姿を確認した瞬間、父が強く抱き締めた。
母も共に褒め称え、二人揃って久しぶりに見る、成長した娘の姿に感動した。
一通り愛でると、二人は有紗を部屋まで連れて行きご馳走を並べた机を見せる。
それに目を輝かせるが、有紗は首を振った。
「あたしね、お嫁に行くの。だから二人とも、ちょっと待ってて。夕方までには帰るからさ」
有紗のその言葉で、両親が一斉に智也を見る。
ずっと有紗の隣にいたのだが、気のせいだと目を逸らし続けてきた存在。
娘が男を連れ込む筈などないと、無視を貫いてきた存在。
しかし有紗にそう言われてしまうと、その姿を認めざるを得なかった。
「認めてくれないなら、あたしはこのまま帰って来ないんだから。勿論、認めてくれるわよね」
脅すようにして、有紗は両親に詰め寄る。
そんな脅しをされてしまっては、二人とも頷くしかなかった。
有紗に嫌われたくないという思いで、二人は仕方がなく頷いた。
それに、有紗の選択を信じてみよう、と言う思いが強かったから。
「じゃっ、あっちにも挨拶してくるっ」
楽しそうに言うと、有紗は智也の手を掴んで家を飛び出して行った。
「ただいま」
久しぶりの帰宅、智也の足取りは重かった。
敗北してしまったからだ。
やはり、誰も出迎えてはくれない。
「敗者がのこのこ帰ってくるたぁ、何事じゃ」
リビングへ向かうと、父が笑顔でそう言った。
強そうないい方を努力しているのはわかるが、智也同様男らしいとは言えない体付きであった。
面白い人だね、と有紗は笑う。
その姿を見て、父も母も一斉にそちらを見た。
「幻かと思えば、本物かい? 智也が女の子を連れてくるなんて」
母はよろよろと歩み寄り、有紗の手を掴んだ。
そして人間だと判断すると、酷く驚愕した。
その言い方に、智也は少し不満気な顔をする。
「五月蝿いな。僕だって、僕だって彼女くらい出来るもん」
鬱陶しそうに言う智也に、二人は更に驚愕した。
その後、大爆笑である。
「聞いたかい? 智也が彼女だってよ」
「ああ、聞いた。智也の彼女になるたぁ、物好きな子もいるもんだな」
余りに笑うので智也は頬を膨らませる。
そんな三人の様子を見て、有紗は楽しそうに笑った。
「あたし、嫁に来るから。宜しくね」
感じている筈の緊張や恐れを全く見せず、有紗は可愛らしく笑う。
そして智也だけじゃなく、両親までを連れ出した。
挨拶と言って、自分の家に招待したのである。
二家族はご馳走を味わい、昔からの友人かのように、楽しく笑い合っていた。