表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
183/189

最終勝利者

「教科の魅力を伝えることも出来たようですね」


 嬉しそうに徹は有紗に笑い掛けた。

 それに対し、有紗も嬉しそうな笑顔を返す。


 教科の魅力を伝えられた代表のみが、この部屋に集められている。

 先日同様、今日ここにいるのも三名であった。


 そして徹と有紗は、今日もここに呼ばれた。

 あと一人は、啓太である。


 三人とも、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべていた。


「勝ったんだ。オレ、勝ったんだ。元々の教科の力だとは思うけれど、やっぱ嬉しいな」


 そう言うと、大きな口を開けて啓太は笑った。


 それに続けて、有紗も大声で笑った。

 自分が勝者、と大きく笑った。


「やっぱさすがあたしって感じね。悔しい思いで終わらなくて済んだわ」


 自画自賛の後、有紗は安堵の表情を見せる。


 正直、勝利する自信など全くなかった。

 自分の無力さを思い知り、悔しい思いをして終わると思っていたのだ。


 人気で選ばれるだなんて思っていなかった。

 教科でも選ばれないと思っていた。


 だからこそ、有紗は全力で体力の限り喜び尽くした。


「嬉しいですね。美術や音楽なんかが勝利するのではないか、とぼくは予想していたんですけどね。外れてしまいました。やはり、予想や計算は数学代表の仕事でしたかね」


 照れ臭そうに頬を掻く徹は、本当に嬉しいと言った様子である。


「選ばれなかった人は誰が勝ったのかも知らないらしいわね。それを予想させて遊ぶってのも面白そうじゃない」


 共に勝利を飾った有紗は、余裕の表情でそんな提案をする。


「そうだな。んで、んで。あとは、それから」


「こんなのもいかがでしょう」


「いいわね! 採用よ」


 楽しそうに嬉しそうに跳び回り、三人でいろいろと話し合った。

 これからの議題などを、精一杯討論した。


 あんなにも何もやることがなかった。それなのに、今更になってやりたいことが溢れて来た。


 最後を感じさせないよう、三人は楽しく話し合った。

 もうこの部屋に訪れることはない、そう理解しているからこその行動である。


「あたしはこれからも負けたりはしない。ずぅっとあたしがトップ、勝者なんだからね」


 満面の笑みの筈なのに、有紗の瞳から涙が溢れた。

 だから有紗は、そう言い残して部屋を飛び出て行った。


「オレだって負けねぇ。先駆けは卑怯だぜ!」


 啓太の目からも涙が溢れる。


 だから啓太も、有紗の後を追って部屋を飛び出て行った。


「おいていかないで下さいよ。ぼくを、おいていかないで」


 美しい漆黒の瞳から涙を零す。


 そして徹は一人、立ち尽くしていた。

 少し騒がしくて狭いような部屋。それが一人だと、余りに静かで広くて。


 寂しくなって、徹は泣き崩れた。


『泣かないで。誰も貴男をおいていきはしないから。歩いて』


 どこからか聞こえて来た声に、徹は酷く驚愕した。

 愛しい聴き慣れた雪子の声。


 彼女は徹が勝利することも、自分が敗北することもわかっていた。

 そして自分がいなければ、徹は苦しむこともわかっていた。


 わかっていた? いいや、それを望んでいたと言うことなのかもしれない。


 だから雪子は、予め録音して部屋に残しておいたのだ。


「ありがとうございます。すぐにいきますね。しかしもう、賢いあなたには敵いませんよ」


 涙を拭いて美しい笑顔を浮かべると、ボイスレコーダーを拾い徹も退室する。


 そして遂に、部屋には誰もいなくなってしまった。

 沈黙だけが部屋を埋め尽くす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ