保健体育
「オレも勇気を出そうと思う。お前らが本当にオレのことを信じてくれているなら、オレだけが疑っている訳にもいかないしな」
いつも通りにではなく、元気な笑顔を浮かべていた。
下手糞な、本当に下手糞な作り笑顔。
それはつまり、今まで素直に笑って来たと言う証拠。
保健体育代表であった少年の、珍しく見せる悲しげな表情。
周りを悲しくさせるが、周りを笑顔にもさせる表情。
「オレは短距離走なんて名前じゃない。本当は相田啓太っつうんだ」
元気を装いそうは言うものの、やはりその表情は悲しみ。
悲しみ色に、染め尽くされてしまっていた。
「お別れみたいな顔しないで下さい。この時間はなくなるけれど、一生会えない訳ではありません! それに、思い出は永遠にずっと隣にいてくれます」
優唯は啓太の笑顔が大好きだった。
だからそれを見たくって、儚げな表情でそう言った。
「そうだな。オレらはダチだもんな! 余計なこと考えるなんて、オレらしくもないしよ」
何かが吹っ切れたかのように、啓太は元気な笑顔を浮かべる。
そしてそれに対し、一斉に全員が笑顔を返した。
部屋いっぱいに大きな笑顔が咲いたような気がした。
成長して、信頼し合えた九人だから……。
相田啓太と言う少年の勇気。
終わりで悲しみに満ちる筈の一日も、始まりの喜びに思えた。
「皆を信じたんですよ? 絶対に、絶対にこれからも一緒にいて下さい。このぼくの、こんなぼくを……。見捨てないで下さい」
誰にも聞こえないように、ポツリと呟き部屋を出る。