技術家庭科
「私は、私は……。ははは、本当は私自身すら、出てくるつもりありませんでしたのに」
寂しそうに悲しそうに笑う、技術家庭科代表であった少年。
まだ覚悟を決め切れていないようで、困ったように戸惑いの表情を浮かべている。
そんな姿を見て、徹が優しく背中を撫でてあげた。
少し羨ましそうな表情を見せたが、雪子も少年に微笑み掛ける。
「私はもうかんなでも玉結びでもありません。二人とは、完全にお別れしたいと思っています。櫻田聖夜、それが私の名前です」
少年には、聖夜にはもう必要なかったのだ。
かんなのことも、玉結びのことも必要なかったのだ。
だって彼は、彼自身がもう強くなれていたのだから。
「儚くも麗しい、あなたにぴったりの美しいお名前です。本当に美しいですね」
そう言うと、徹は聖夜の頬にキスをした。
「これからも一緒ですよ? 今のは、あなたを守る大切な魔法です」
可愛らしく女性のように、徹は聖夜に言った。
徹の潤しい唇が触れた場所を、聖夜は愛おしそうに手で撫でる。
それはまるで、本当に魔法を掛けられたような気持ちだった。
その行動に、雪子は嫉妬する。
だけど徹が聖夜にキスをする、美しい顔を見ただけで幸せだった。
「ゆきにも! ゆきにも魔法を掛けてよ」
大人っぽくなんてする気もなかった。
雪子は可愛らしく、徹におねだりをした。
それを見て、徹は雪子の頬にもキスをする。
同時に、雪子は幸せそうに蕩けていった。
「溶けちゃってるわ。物凄い意力ね」
驚愕の表情で徹と雪子を交互に見て、有紗はそう零す。
「魔法、ですから」
そんな有紗に対し、徹は冷たい顔をして小さくそう返した。
その怪しいような恐ろしいような顔も、雪子にとっては至上最高。
徹の冷めた微笑みに、隠れた温かさと魅力。
それを見付けたような気がして、それを妄想して。
結局は、徹の放つ魔性の美に惑わされ蕩けていった。
「私と、これからは私と仲良くして下さい。本当に宜しくお願い致します」
守ってくれる魔法の、直後の反動により動けなくなっていた聖夜。
やっと動けるようになり、可愛らしい仕草でお願いをした。
謎に包まれていたけれど、性別を始め様々なことを明かした。
ずっと守ってきた斬新な衣装ではなく、今は普通の服装。
声は高いままだけれど、背はかなり大きくなったことだろう。
櫻田聖夜と言う少年の勇気。
終わりで悲しみに満ちる筈の一日も、始まりの喜びに思えた。
「オレは不用心で無警戒な奴に見えるだろうけど、本当はそんなことないんだぜ? 疑っちまう。皆が名乗った名前もまた偽名なんじゃないかって、今まで過ごした日々も偽物なんじゃないかって。疑っちまう。けどよ、ここで逃げたらあとで後悔する。だからオレ、皆を信じるぜ」
誰にも聞こえないように、ポツリと呟き部屋を出る。