びじゅつ ~絵だって描けます、倒置~
「音楽は、本当に優秀さで決めた。才能の問題、そんなの酷い」
色彩は静かに切り出した。
それに、墾田ちゃんは大きく頷いていた。
歌うことの恥ずかしさが半端じゃなかったからだ。
「だから、絵で決める。テストを作るのがめんどくさい」
画用紙を前に突き出した。
そして全員に画用紙と鉛筆を手渡す。
「わたしの絵でも、どうぞ。可愛く描いてね?」
今回は美術なので、美術代表の言葉はほぼ絶対。
その上、色彩には誰も文句が言い辛い。
だから何を思おうと、決定事項なのだ。
「……可愛い♥️」
画用紙を受け取った時点で、ミスターはそう呟いた。
シャープには何も感じなかった彼。
しかし、色彩の言葉には可愛さを感じていたのだ。
「これで全員完成ね」
暫く待つと、色彩は手をパンと叩いた。
その合図で、全員が一斉に自分の絵を公開。
それを色彩はじっくり見て回った。
「絵、上手なのね……」
そう言ったのは、なんと墾田ちゃんだ。
パイの絵を見てそう呟いてしまったのである。
「え、ありがと」
素直なパイは素直に返す。
二人の素直な姿に、周りの人たちは癒されていた。
恥じらう二人は、誰から見ても可愛らしかったから。
しかし、色彩だけは違った。
「可愛い。……とっても、嬉しい」
色彩が選んだ絵は、倒置によるものだった。
上手さで行ったらパイかシャープ。
そうなんだけど、色彩は倒置のものを選ぶ。
一番可愛らしく描かれていたから。
「勝者、倒置。確定」
色彩の言葉で、もう確定してしまった。
「絵だって描けます、倒置」
七教科目、美術の勝者が決まった。