国語
「これが、本当の本当に最後だそうですよ。だから、最後だけは教科代表としてではなく話をしていいのだそうです。ほんの少しですが、優しいところもあるのですね」
国語代表としてではなく、少年はそう言った。
九人がこの場に集まるのはこれで最後。
今日は彼に与えられた、最後の時間なのだ。
「ぼくはもう、倒置ではありません。國枝徹と申します」
ずっと国語代表としてだったが、今日は違う。
だから彼は、最後に知ってくれと本名を名乗った。
孤独の天才たち。
初めて理解者に出会って嬉しかったんだ。だからこそ、この場だけで終わらせたくなんかないと自分の名前を教えたのだ。
これからも仲良くして欲しい。
これからは、キャラクターではなく自分を見て欲しい、と。
「本名を晒す、いい度胸だわ。まさかあんたが、ちょっと意外ね。そこまでされちゃうと、これっきりって訳にも行かなくなって来るじゃない」
寂しそうに瞳を潤ませていた、社会代表だった少女。
しかし徹の言葉を聞き、強がりに笑顔を浮かべてそう言った。
「国語代表を愛す? いいえ、これからも貴男の傍にいたい。貴男が持っている能力にも勿論惹かれたけれど、何よりも貴男の優しさが好きだから」
心を開いてくれた徹に対し、嬉しそうに笑うのは音楽代表だった少女。
何よりも彼のことを愛し、大切に思っている少女。
彼女の表情は、嬉しさでいっぱいであった。
「ありがとうございます。ぼくも、ぼくもです。これからもあなたに傍にいて欲しい、これからもずっと。理由なら、同じようなものですよ」
優しく微笑む。
瞳に浮かんでいるのは、悲しみではなく喜び。
幼い顔も、少しだけ大人になっていた。
國枝徹と言う少年の勇気。
終わりで悲しみに満ちる筈の一日も、始まりの喜びに思えた。
「本名晒すのか、ちょっと辛いよね。個人情報は絶対的に守る主義でさ。でも不思議と、僕も君たちなら信じられる気がするの。ほんと、不思議だよね」
誰にも聞こえないように、ポツリと呟き部屋を出る。