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あなたはどのきょーかがすき?  作者: ひなた
文字に現れる想い
172/189

保健体育

「意外だぜ。こんなに票が集まるなんてよ」


 自信を持っているようで、自信など持っていない少年。

 短距離走は、本当に驚いているようだった。


「調子に乗らないで。最後に勝つのは、絶対に英語なのだから」


 どこか不機嫌そうに、色彩は言う。


 彼女に闘志などもうない。

 不機嫌なのは、終わりが近いからだろう。


 しかし短距離走は、それを自分のせいだと思ってしまう。


「ごめんな。オレ、一生懸命頑張るよ。確かにオレは勝者に相応しくないかもしれね。けどな、全力でやるだけやってみるさ」


 色彩が黙ってしまうほどに、短距離走は素直な少年だったのだ。


 勝ちたい。

 その思いの下、楽しそうに笑った。


「好きにして。叩きのめすだけ。ただ、体育の魅力は伝わったよ。リレー、ライバルとも繋がれた」


 微かに笑みを浮かべて、色彩はそう言った。

 彼女は短距離走の企画、リレーが本当に楽しかったのだ。


 去り行く思い出、それを想うかのように色彩は天を仰ぐ。


 冷たいコンクリートの天上すら、気持ちの良い青空に感じられた。


「あれは楽しかったな。おいらも、結構投票のポイントになったぜ」


 良かった、と何度も短距離走を褒め称えるかんな。


 素直に嬉しくって、本当に嬉しくって。

 笑顔の短距離走は、涙さえ滲ませていた。


「そんなに楽しんで貰えてたのか。オレも楽しかったし、やっぱ運動はいいな! この場所がなくなっても、また……またどこかで……」


 急に悲しそうな表情をして、短距離走は言う。


「そんなこと仰らないで下さい。この場所はなくならない、なくしたりしません。たとえ場所が変わったとて、たとえ上に引き離されようとも、何も変わりはしないのですから」


 だんまりを決め込んでいた、短距離走の手を持ってそう言った。

 その言葉は、真っ白な短距離走の心に深く浸透していく。


 素直さを失い掛けた、子供らしからぬ面々。そんな少年少女も、素直に受け取ることが出来る言葉だった。


 だってそれは、大人びた少女の、心から発せられた素直な気持ちなのだから。


「そうだな。何も変わらせはしない」


 短距離走は、かあさんの手を強く握り返す。

 そして滲む涙を振り払い、満面の笑みで言った。


「ありがとよ。もっと皆に運動の楽しさを伝えられるよう、一生懸命頑張るぜ」


 短距離走はそう言って微笑んだ。

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