技術家庭科
「これが技術で、これが家庭科ですね。そして、これが技術家庭科。しかし男性も女性も関係ないと、改めて確認することが出来ましたよ」
技術家庭科代表の少年は、そう嬉しそうに言った。
他人を観察し、見極め見定める能力を彼は持っている。
それが誰の文字か判断することなど、彼にとっては造作なかった。
最早、用紙の折り方だけで誰のものかわかったくらいである。
「倒置様、シャープ様、お二人は技術家庭科と書いて下さいましたね。両方の魅力をしっかり伝えられていたのなら、とても嬉しく思います。かんなにも玉結びにもお礼を言わないといけませんね」
喜びでテンションが高いからだろうか。
少年は、異常なまでに饒舌だった。
かんなや玉結びに頼ることなく、普通に会話をしている。
「いいえ、違います。あなたに魅力を教えて貰ったのですよ、かんな様や玉結び様ではありません」
そう微笑むと、倒置は少年の髪を撫でた。
力が抜けて笑顔で崩れ落ちる少年を、シャープがなんとか支える。
そして少年が再び自分の足で立つと、シャープ自身も話し出した。
「我らが神、倒置様と同意見ね。かんなに魅力を感じれば、技術と書く。玉結びに魅力を感じれば、家庭科と書く。そうではなく技術家庭科と書いた理由、わかってくれないと困るよ」
遠回しなようで、ストレートな言葉だった。
嬉しそうに少年は笑い、深々と二人に頭を下げる。
そしてくるりと反対側を向いた。
「技術にご投票下さり、誠にありがとうございます。どのような点に魅力を感じて下さったのでしょうか」
墾田ちゃんの瞳を真っ直ぐに見つめ、少年は問い掛ける。
「カッコ良かったからさ。木とか切って大工的な感じも、あとパソコンとかも使ってたよね? そう言うのがさ、なんか職業に役立てそうで、なんかカッコ良くって。ほら、働く大人ってカンジじゃん」
上手く説明が出来ないけれど、墾田ちゃんが技術を”カッコいい”と思ったのは伝わった。
だから墾田ちゃんも嬉しいし、少年も喜びの表情を見せた。
何度も何度もお礼を言うと、少年は再び別の方向へと視線を向ける。
「貴方方お二人は、家庭科にご投票して下さったようですね。何に魅力を?」
ミスターと色彩を順に見て、少年は首を傾げた。
二人はろくに話も聞かず駄弁っていたので、突然話し掛けられて少し驚く。
けれど全く表情に出さず、色彩はその質問に答えた。
「やはり、料理、大事。そう思っただけ」
短く区切り区切りにそう言うと、色彩はこの話は終わったかのような顔をする。
戸惑うミスター、それを自分の後ろに隠して色彩は少年を見る。
無表情ながらも、どこか鋭い視線だった。
「ごめんなさい! 家庭科に魅力を感じて下さった、その事実だけで結構でしたよね? そんな、理由だなんて……。鬱陶しいことして、申し訳ございません」
その視線には耐えられなくて、少年は慌てて頭を下げる。
そして強制終了へと入った。
「ありがとうございます。これからはもっと皆様に好いて貰えるよう、精一杯努力したいと思います」
少年はそう言って微笑んだ。