音楽
「音楽自体に十分な魅力があると思ったんだけどね。まぁ何もしていないのは確かだし、当然の結果と言う訳か。誰? シャープごときに投票してくれたのは」
音楽。そう書かれた投票用紙をひらひらと振り、めんどくさそうに問う。
「ううん、誰もいないよ。僕は音楽に投票したけれど、君には投票していないからね」
パイは音楽を鑑賞するのがもとより好きだった。
だから嘘でも強がりでもなく、その言葉は本当。
彼は、全くもってシャープに投票はしていなかった。
人ではなく教科のみを見ているのだから、ルール通り。
ルールに忠実で、投票者としては適している。そうも言えるだろう。
「ありがとう。否定してくれて助かった。本当に音楽の魅力を感じてくれた、そうわかったからさ」
自分のことは否定された。ただ、シャープとしてはそれで良かった。
彼女は素直に、素直に音楽を好きになって欲しいと思っていたから。
音楽が好きでいて欲しい。音楽を好きになって欲しい。
だから彼女は、音楽の魅力を伝えようともしていない。
伝える必要もないと、音楽の魅力を信じ切っているのだから。
「美しい琴の音を、いつか君は聴かせてくれた。本当に美しかった。今は大切な人がいるのだから、その人の為に歌を奏でるのでしょう。あのときは……音楽の魅力を、魅せられた気がしたよ」
哀しそうな表情を浮かべて、パイはそう言った。
以前、シャープはパイの態度が酷く気に入らなかった。
解散後に呼び出して、決闘を申し込んでしまうほどに。
そして現れたパイを、音楽で迎えた。その夜が満月となり、晴れることまでも確認済みだった。理科代表の言葉なのだから、天気予報よりも確実だろう。
外に出ることは許されない。
それでも月夜をも自分の芸術に取り入れたかった為、窓越しででも月が見られる時間すら計算した。
そうして計算に計算を重ね、パイに最高の芸術を魅せ付けたのだ。
表には見せないけれど、それからパイは音楽の魅力の虜と言う訳である。
「聞き捨てなりませんね」
大人しく話を聞いていたが、倒置がそう言って二人の顔を順に見る。
「今度は貴方の為に歌を。当然でしょ? 貴方だけの為に、ね」
不機嫌そうな倒置に喜び、シャープはそう言ってピースした。
彼が嫉妬してくれるのが、嬉しくて堪らなかった。
物凄い笑顔で、シャープは頭を下げる。
「パイくん、ありがとぉぉお♫ 他の皆にも音楽の魅力が伝わったらいいな、と思う」
シャープはそう言って微笑んだ。