理科
「理科に魅力を感じてくれている方がこんなにいるなんて、嬉しいです。私が褒められているのとは違いますが、私の力のようにも感じられて気分がいいです」
こうは言うけれど、彼女は自分の力だと思っている。
自分が優秀だから理科の魅力を伝えられた、そう思っている。
それは確かに間違っていない。
かあさんが楽しさを上手く伝えたから、楽しいと思って貰えた。
かあさんが頭の良さを見せたから、理科の凄さをわかって貰えた。
間違ってはいないのだけれど、いや、間違っていないからこそ。
喜びに本性を潜ませるかあさんを、気に入らない人物がいた。
「うん。僕は理科に魅力を感じたの。元々理科は楽しい教科だと思っているし、教科の魅力と言われては選ばざるを得ないよね」
理科代表ではなく理科に魅力を感じた、と言うことは強調してパイは言った。
しかし今のかあさんは頭が回らないらしく、その嫌味に近い言葉も気付いてくれない。
彼女は自分の実力を信じ過ぎてしまっているのだ。
実際優秀なのだから、自意識が過剰と言う訳ではない。
過剰なのではなく、ただナルシストなのだ。
「ありがとうございます。パイさん、理科に投票して下さったのですね」
だから、彼女は滅多なことで他人に興味を持ったりしない。
自分の好きなことだけをやる、興味のないことには尽く無関心だった。
パイは結構特徴的な文字を書くが、どれがパイのものかも判断出来ない。
ただし彼女は、興味を持ったものに対しては物凄く研究し追求する。
「この文字は短距離走さんですよね? 本当にありがとうございます。私、最高に嬉しく思います。ああ」
唯一とも言えるだろう。
彼女が興味を持った人間なんて、短距離走ただ一人である。
そんな特別であることにも気付かず、短距離走も嬉しそうに笑った。
周りを不快にさせるほどの笑顔で、二人は笑い合っていた。
「他は投票してやってもお礼すらなしって訳? ま、お礼目当てで票入れてないから別にいいけど。性格じゃなく教科に魅力を感じたんだし」
かあさんが持つ投票用紙の中に、倒置の文字があることにシャープは気付いた。
たった一瞬見ただけだが、彼女の目に狂いはない。
自分も入れたのだが、それがスルーなことに文句はない。
ただ倒置からの票を貰っておいて、それをスルーするのは気に食わなかった。
「投票して下さった皆様、誠にありがとうございます。これからも理科を宜しくお願い致しますね」
シャープに言われ仕方がなく、しかしなんの屈託もないような笑顔でお礼を言った。
それは笑顔を作り続けてきた彼女の、完璧すぎる作り笑顔だった。
一人一人、理由を聞くことも面倒に思えた。
だから彼女は纏めてお礼を言って癒しのスマイルを浮かべると、短距離走と再び話し始める。
「もっと皆様の心を手に出来るよう、努力致します」
過酸化水素水はそう言って微笑んだ。