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あなたはどのきょーかがすき?  作者: ひなた
文字に現れる想い
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国語

「ミスターエックス様のものですよね、この文字は」


 最も確信があるものをと思い、倒置は一枚の紙を見せた。

 なんだか洒落た、達筆な字で国語と書いてある。


 紙にある文字を確認して、ミスターはこくりと頷く。


「墾田永年私財法様のものでしょうか、これは」


 次に倒置が出したのは、女の子らしい可愛らしい文字だった。


 それを見ると、墾田ちゃんは首を傾げる。


 彼女のその仕草に間違えたかと倒置は思う。

 けれど、そうではないのだ。


「多分、あたしが書いた奴だと思う。でもなんでわかったのさ」


 墾田ちゃんは、自分の字のどこが可笑しいのかと問う。


 倒置は国語代表。

 当然、文字だって上手い筈。


 そう考えて問い掛けた。


「可愛らしい文字をしているではありませんか。あなたくらいでしょう、この中で女子らしいのは」


 倒置のその発言は、他の少女を傷付ける。

 それが無意識でないのだから、彼は性格が悪い。


 ただ、貶すだけに終わらないのが彼だ。


 勿論自分に票を入れてくれた人に対してのみだが。


「ん、ありがと。国語代表って、やっぱズルいよね」


 頬を仄かに赤く染め、墾田ちゃんはお礼を言う。

 女子らしいと言われたのは、素直に嬉しかったのだ。


 その姿に少し嫉妬して、パイは唇を尖らせていた。


「どなたの文字でしょう。過酸化水素水様、ですか? うぅ」


 倒置を唸らせたのは、あまり上手とは言えない文字である。

 特徴があると言う訳でもなく、普通にバランスが可笑しいのだ。


 だからこそ、間違えたら不味いと思い断言が出来なかった。


「あっ、はい。私だと思います」


 本人も一瞬迷ったが、自分の文字だとかあさんは肯定した。


「センスに富んだ文字だと思います。どちらかと言うと、美術の方が向いているかも? それより、国語のどこに魅力を感じて下さったのでしょうか」


 ものは言いようだな。

 そうは思ったけれど、素直に喜んでおくことにした。


 雑に書いた文字を褒められても嬉しくはなかった。


 しかし雑な文字しか見たことない倒置は、そこには気付けなかったのである。


「やっぱり会話をしていると、国語代表はさすがだなって思います。口が上手いですよね。ちょっと口悪いですけど」


 国語代表を相手にするのだから、言葉を選んでかあさんは言った。


 そして彼も自覚があったので、口が悪いと言う言葉には少しショックを受ける。

 改めてそれを直そうかとも考えたが、シャープが首を振るのでこのまま行こうと思う。


 お世辞を言うのは得意だし本心を隠すのも得意だが、何より人を馬鹿にするのが大好きだから。


 そんな倒置のことが、シャープは大好きだから。


「最後の一枚はどなたでしょう。国語を代表しているのが恥ずかしいほどに、上手な文字だとは思います」


 国語には、四票が入っていた。


 手書きなので文字で誰が入れてくれたのかはわかると思った。

 しかし初めて見る、とても綺麗な文字だった。


 機械のような、人の温もりのない文字。手書きとは思えない文字。


「多分、私だと思います。上手と言うことは違うかもですが、その……私も……国語に投票しましたので」


 恐る恐る手を上げたと思ったら、彼の表情は突然元気な笑顔となる。


「おいら、本当は文字が上手だってことだ。へっへん」


 自ら制御することも出来ず、かんなが体を乗っ取ってしまったようなものだ。


 性格だけではなく、本当に別人のようだった。

 書く文字すら全くの別物なのだ。


 そして今まではかんなや玉結びの文字を見ることが多かった。


 だから本人が書く綺麗な文字を、倒置は誰のものか判断しかねたのだろう。


「ありがとうございます。それで、なぜぼくに票を下さったのでしょうか」


 ミスターと墾田ちゃんの方も向き、倒置は可愛らしく問い掛けた。

 それにかんなは心射抜かれて、仕方がないので玉結びが語る。


「うちの子に本を読ませたそうじゃない。貴方の作文付きでね。それから、貴方を慕い出して溜まったもんじゃないわ。馬鹿男子共を虜にするのも程々にして」


 玉結びが倒置のことをなんとも思っていないからこそ言える言葉だった。

 他の人格も玉結びは守ろうとしている、だからこそ言える言葉だった。


 その言葉に、倒置はハッとする。


「かんな様じゃ、なかったのですね。ぼく、……ごめんなさい」


 他の人にはわからなかったのだが、玉結びはなんだか満足気。


 無神経なかんなに少しでも自分の気持ちを理解して貰おうと思った。

 だから倒置はその本を差し出したのだ。


 ただ、隣で読んでいるのがかんなでないことには気付けなかった。


 彼がかんなと玉結びを演じ切っていた頃だったからこそ。

 だからこそ、気付くべきだったのに。


「あたしはやっぱ、古典かな。それに、元々国語は好きな教科だしさ」


 気まずい空気を掃う為、墾田ちゃんは勇気を出してそこで言ってくれた。


 ありがたい。

 そう思いながらも、予想通りの言葉に倒置は微笑むだけで流した。


「ミーの英語も、ユーの国語と同じように言葉です。けれど、ユーほどミーは上手く喋れないので。素直にスゴイって、そう思っていたのです。日本人なのですから、日本語が出来なければどの教科も難攻でしょうし」


 視線を向けられて、一生懸命ミスターは説明する。


 説明は上手くないけれど、国語に魅力を感じてくれたと言うことはわかった。

 一生懸命頑張る姿は、演技なんかじゃなかったから。


 そして、演技する意味もなかったのだから。


「ありがとうございます。皆様にも好いて貰えるよう、頑張りたいと思います」


 倒置はそう言って微笑んだ。

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