とーひょーけっか
最初に部屋に入ったシャープが、投票箱を開ける。
皆の人気が欲しくて戦っている九人。
それでも共に戦う戦友の結果は、より恐れてしまうところがあるのだろう。
隣にいつもいるからこそ、この結果を見るのは恐怖だった。
「そんじゃ、投票数を数えるわよ。どうなっているかしらね」
零表の人が出てしまうので、一人三票と言うことにした。
それならば、さすがに誰も一票は入るだろうと考えたからだ。
半分に折られたメモ用紙。
他の人では手が震えてしまうが、玉結びは自信に満ちた表情で取り出した。
そして一枚ずつ確認し、自分の名が書かれたメモ用紙をそれぞれに渡す。
とりあえず、一枚も持っていない人はいないようだった。
「これで、終わりでしょうか」
英語。そう書かれた一枚の紙を持ち、ミスターは泣きそうな目で問う。
彼は三位以外を取ったことなどない。
毎回それだけの高順位なので、一票というのには素直に落ち込んだ。
その上、それは見覚えのある文字だった。
色彩なのである。
勿論、色彩はミスターのことを優秀と思い、英語に魅力も感じ投票した。
それでもミスターは、彼女の優しさなんだと判断し更に落ち込んでしまう。
「ええ、もうないわ。残念だったわね! ふん」
空の箱を振って中がないことを示し、墾田ちゃんはミスターを鼻で笑った。
別に、特別彼が嫌いとかではない。
しかし調子に乗っているな、とは思っていた。
どうしても彼に三位の実力があるとは思えなかったのだ。
それが妬みと言う醜い感情となることを知っていたので一応隠そうとはしていたのだが。
ただ投票時は感情を捨てたので、それを理由に投票しなかった訳ではない。
ミスターに実力はないと、これまでやって来て素直にそう思っていたのである。
「もしかして、私っ! 私は一位なのでしょうかっ!」
理科と書かれた五枚を何度も見て、かあさんは嬉しそうに飛び跳ねる。
「わ、私も五枚で……えっと、同率一位です……ね。でもなんか、ズルしたみたいでごめんなさい」
嬉しそうにするけれど、技術家庭科代表の少年は何だか申し訳なさそうである。
なぜなら彼は、技術家庭科代表なのだから。
技術家庭科。そう書かれた紙はいいのだ。
ただし中には、片方の教科しか書かれていない教科もある。
だから彼はズルしたみたいと口にしたのだ。
二つの教科を持つ自分は卑怯なのではないか。
そう考えて謝ったのだ。
「自分で自分の教科を入れた訳ではないのでしょう? それ以外に反則など作った覚えはありませんが、何をなさったのでしょうか」
ズルと言う理由はなんとなくわかっていたが、倒置は優しく問い掛けた。
その言葉に、少年は黙ってしまう。
だって彼は何もしていないのだから。
ルールに則り戦い、勝利を手にした。
ただそれだけである。
「あなたくらい優秀な方でないと出来ませんよ、二教科を代表するなんて。それも理由に含まれていますよ、ぼくがあなたに投票した」
倒置が投票してくれたのは、少年にもわかっていた。
元々喜んではいたのだが、理由を聞いて更に嬉しそうな表情をした。
誰に投票した、などと口にしなくても皆大体はわかった。
天才と言うのは特徴的な文字をしている。
そして一度くらいは、その文字を目にしている筈だから。
意外なところが多くて、確信を持つことは出来ずにいたけれど。