ぎじゅつかていか
「今日は、反対にしてみたいと思います」
突然そのようなことを抜かす少年に、皆は首を傾げた。
それに気付いて、技術家庭科代表の少年は説明をする。
「基本的には、男性に技術、女性に家庭科をして頂くことが多いでしょう? だからその……、今日は反対にしてみようかな、とか思っています」
俯きがちにそう言うと、少年は小さく微笑んだ。
と思ったら、それは元気な笑顔に変わる。
かんなが出て来たのだ。
「女っ子の相手は中々しねぇけど、任せてくれ! 技術ん中でもパソコンとか選んでやればよかったな。おいらはいつも通り男にやらせるもんだと思ってたからよ」
頬を掻いてかんなは鋸をそこに置いた。
見慣れないものの登場に、少女たちは戸惑ってしまう。
そんな中、かあさんだけは笑顔でそれを見つめていた。
恋しさを感じているかのような、恐ろしい笑顔で。
そしてその表情に、墾田ちゃんは鋸に対するもの以上の恐怖を感じてしまう。
「こいつの使い方を説明するよ。実際に使って貰おうと思ってるけど、本当に気を付けてくれよ? れでぃには怪我させらんねからさ」
実際に使う。
かんなのその言葉に、かあさんは目を輝かせる。
それに気付かぬふりをして、授業は開始された。
「男性諸君、久しぶりね。包丁の使い方を説明しようと思うの。ちゃんと使えないと危ないからね」
かんなが口を閉じた間に、今度は玉結びが説明を始める。
こちらは見慣れたものだが、結局は刃物である。
そちらもちらりと見ると、やはりかあさんは愛おしそうに笑う。
「料理をするので使えますけどね、包丁くらい」
倒置はそう言って、華麗な包丁捌きを見せる。
それには玉結びも戸惑うものの、彼女はその程度ではない。
勿論、上級者用の授業だって用意してある。
だって玉結びは、完璧でなければならないから。
「それじゃあ、まずは見本ね」
「そんじゃ、まずは見本だな」
同時にかんなと玉結びがそう言う。
そしてプロの料理人でも出来ないような、家庭科代表としての器用さを。
プロの大工でも出来ないような、技術代表としての器用さを。
素早く順に見せた。
用意されていた食材は、あっと言う間に綺麗な形で捌かれていた。
用意されていた板は、あっと言う間に可愛らしい星型になっていた。
その技には、素直に全員が感心する。
かんなや玉結びではなく、技術家庭科代表の少年。
結局は、彼が両方の技を魅せたと言うことなのだから。
「練習すればすぐに出来るようになるわ」
「この技を取得するには何万年もの訓練を要する」
ほぼ真逆に近いようなことを言い、かんなと玉結びは説明を始めた。
少年からの質問には、玉結びが優しく応じる。
少女からの質問には、少し戸惑う表情を見せながらもかんなが男らしく答える。
地質一人で同時にそれだけのことを熟しているのだから、正真正銘天才だと思った。
天才たちから見ても、それは人並み外れの行動だった。
「あっ」
しかしそれが本人の姿に戻った途端、技術も家庭科も出来なくなってしまう。
理由はわからないのだが、二人に出来ることも彼自身は出来ないのだ。
「ごめんなさい。私、失敗し……講師なのに……。その、ごめんなさい」
謝ることでもないのに、何度もペコペコ頭を下げる。
自分の担当教科すら、少年は完璧でいられなかった。