えーご ~色彩、英語くらいしか出来ないから~
「簡単なものだと思うデス。余裕綽々です」
五教科優先!
自然と生み出されたそのルールにより、次は英語のテストである。
そのテストの難易度は、日本人には簡単でないものであった。
小三レベルの国語の問題である。
それを、そのまま英語で出題としたというような感じ。
つまり、英語が出来ただけではいけない。
英語が出来たって、国語が壊滅的では出来なかった。
中には、日本語で出されたとしてもわからないような人だっていた。
そんな人は、勿論英語だってさっぱりだ。
「簡単。難易度低過ぎ」
そう言った色彩が握るテストには、はっきり百点と書かれていた。
十問中十問正解。
全問正解つまり百点満点なのだ。
順位も勿論一位。
「バカにし過ぎ、かな? うん」
無表情の色彩も、この点数には喜んでいた。
しかしやはり表情には表れない。
声も弾んではいるが、誰も気付かない多少の変化だった。
「英語がお得意なんですね。しかしバカにし過ぎとはミーも思いましたが……」
そこまで言って、ミスターは短距離走をちらっと見る。
今回も全く気にしていない様子だが、彼は再び零点を取ってしまっている。
自国語である国語が出来ないのだ。
そんな彼に英語なんて出来る筈がない。
「……ごめん」
色彩もパイと同じ、天才であった。
だから”バカ”の存在は知らない。
しかしミスターの表情を見て、ぺこりと頭を下げたのだ。
「ミーに謝られても困るよ」
戸惑うミスター。
それなのに、短距離走本人は何も気にする様子はない。
それどころか、凹んでいたのはミスターの方だった。
以前、ミスターの主張で短距離走は『英語大事!』と言ってくれた。
だからミスターは密かに期待していたのだ、短距離走の英語力に。
しかしこの点数を見て、絶望してしまっている。
悲しみ失望し、また自信を失ってしまっていた。
励ます為の言葉で、あれは心からの言葉ではなかったのか。
気を遣わせてしまっただけ。結局迷惑を掛けてしまっただけだったのか……。
表情に出さないように、彼なりには努力していた。
でも他の人から見たら、悲しそうで仕方がなかった。
「英語、大事。大体どこでも、英語があれば行ける。だから、ね? ほら」
一生懸命励まそうとしていたのは、成績トップの色彩である。
満点である彼女が言った方が、一番効果があると思われたからだ。
そんなことで、自信を取り戻したりするミスターではなかった。
だから色彩は、強引に纏めに入る。
さっきは、ミスターの勇気で墾田ちゃんとパイの喧嘩が止まった。
ミスターは勇気を出して頑張ったんだ。
そして、その彼が今凹んでいる。
それならば、自分が終わらせるしかない。
それが出来るのは自分だけ。終わりに出来るのは自分だけ。
そんなことを感じ、色彩は勇気を振り絞る。
ミスターの為に、勇気を振り絞る。
「色彩、英語くらいしか出来ないから」
五教科目、英語の勝者が決まった。