りか
「目的は楽しむことではなく、学ぶことなのですよね? それならば……」
普段かあさんは、楽しませることを目的とする為実験をすることが多い。
そうでない場合も、色々工夫して楽しませるようなものを持ってくる。
しかし今回彼女が持ってきたのは、教科書と絵本を一冊ずつ。
なぜ絵本を持っているのか疑問ではあったが、真面目な表情から硬い授業を行うのだと言う想像は容易であった。
「私の大切な友達をご紹介致します。全員を覚えて頂きたいのですが、名前だけでは難しいでしょう? だから私はそれぞれの特徴を纏めて参りました。まず、これをご覧下さい」
そう言ったかあさんは、教科書を開き周期表を見せた。
それにより大体は理解したのだが、短距離走は素直過ぎた。
その上、そもそも原子と言う存在自体を知らなかったのだから話にならない。
「お前、友達多いんだな。百人以上だぜ。ただ、友達に番号を振るのはどうかと思う」
友達と言った為、実際にいる友達のことだと思ってしまったのだ。
そしてその短距離走の普通の感覚。
それは普通ではない、人間以外を友達と称す面々を傷付けた。
彼ら彼女らは、そうすることでしか孤独を癒す術を知らない悲しき者たちだったから。
「この番号は私が付けた訳ではありませんので、その……」
思わぬ短距離走の指摘に、かあさんは戸惑ってしまう。
しかし彼が「そうなのか?」と笑ったので、一緒に笑うことにより一旦全てを流した。
改めて、今日やる内容を伝える。
「特徴を理解し、覚えて頂きたいのです。キャラクター形式にすれば覚え易いでしょう」
そこで登場するのが、お手製の絵本なのである。
楽しませることを目的にはしていない。
真面目にやろうとしても、かあさんはこれが限界なのであった。
つまらない。その言葉に、どうしても恐れてしまうから。
「プロフィールに合った素敵なイラストでしょう? 実は私、色彩さんに頼んでしまいました。私の下手糞の絵を晒しても、誰も得しないと思いましたから」
美術代表と言うだけあって、色彩の絵は上手だった。
プロフィールを基にしたイラストも素晴らしい。
しかし、特徴を基にしたプロフィールもかなりのものであった。
「可愛いわ。絵も可愛いんだけど、キャラ設定とかも普通に可愛いと思う。これで勉強出来るんなら、理科もまあ悪くないわね」
墾田ちゃんの言う”悪くない”は、他の人が驚愕するまでの褒め言葉である。
彼女はかあさんのことを、理科と言う教科を毛嫌いしている。だからこそ、珍しいことである。
「皆様に理科が、理科が癒しを与えているのです。それがなければ、楽しく生きると言う願いも叶わないでしょう」
そんなかあさんの想いは、最初の主張から一つも変わってなどいなかった。