ぎじゅつかていか ~勝利の為~
「優勝への想い、語って頂きたいと思います」
技術家庭科を代表する少年。
彼はそれだけ言うと、玉結びとなってしまった。
もう結構の時を共に過ごしている為、表情の変化だけで誰なのかわかるようになっていた。
「家事を男の方にもやって頂けたら、それをお考え頂けたら。そんなことを思っただけよ」
微笑みを浮かべ、玉結びは切なげな表情で語る。
しかしその表情が急激に明るくなる。
表情は明るくなったが、玉結びのままではあった。
「そ・れ・に、家事の出来る男はモテるゾ♡」
満面の笑みを浮かべて玉結びは恥ずかしげもなく、そう言った。
あざとい。それでも元々顔が美しいからか、可愛らしさをきちんと溢れさせていた。
そして可愛いオーラを振り払われ、玉結びがかんなに変わったことを示す。
「おいらは、作る楽しみってのを知って貰いたいんだ。材料があれば工事可能、便利だろ? それによ、パソコンも使えないような奴笑われるぜ。技術が出来なくてなんの職業に就くってんだ。皆に不便な思いして貰いたくねぇんだよ」
本人にそのつもりはなかったのだが、かなりバカにしたような言い方である。
だからそれには、墾田ちゃんがバカにした言い方で対抗する。
彼女は悪者を自分にする為、バカにした言葉にはもっとインパクトのある暴言で返すのだ。
皆を守りたい。その想いの下戦う墾田ちゃんだから。
「相当自分の教科がお好きなようね。それでも、判断を間違えてはいけないわ。技術が出来ないと就職出来ないの? 笑わせないで頂戴」
しかし墾田ちゃんの企みは一瞬にして水の泡となってしまった。
彼女の対抗に驚き、少年はかんなではなく素となってしまう。
そして彼には全く言い返すつもりもなく、ただ怯えてしまう。
結局この場合、悪者が墾田ちゃんになれたかどうか怪しかった。
庇い切れたかどうか怪しかった。
もっとかんなを貶しておけばよかった。
それでも今、技術を代表して前にいるのは弱い少年。
そんな少年を傷付けることなど出来なかった。
たとえその少年のキャラクターを犠牲にすることとなっても。
周りの空気に困惑してしまい、恐る恐る少年は言う。
「わ、私が優勝したいと思います……」