びじゅつ ~勝利の為~
「わたしが勝ちたいんじゃない。教科が勝ちたがっているんだ」
なんだか名言風に、色彩は突然宣言した。
他の人にはネタにしか聞こえなかったか、彼女は本気でそう言っているのである。
少しも疑うことなく、彼女は本気なのである。
だからこそ、笑っている意味がわからずに少し不機嫌顔。
「教科が勝ちたがっているんだよ」
なぜかもう一度繰り返し、今度は何かの絵を描き出した。
そして数秒後、その絵を披露する。
一瞬、何が描かれているのかわからなかった。
レベルが高過ぎて、理解に困るほどの絵であった。
「教科が勝ちたがっている、ですか。なるほどね」
倒置の呟きで、数名が絵の意味に気付いた。
そして絵が読み取れた面々は、言葉の意味も理解出来た。
さすがは美術代表。センスや絵の技術は神もを凌駕するな。
感心して感動までして、そこまで思わせる絵。
わからない人にはわからないままなのだけれどね。
「わかり易く描いた。どうしてわかってくれないの? 教科が勝ちたがっているじゃん」
色彩は必死に説明するけれど、二人の少年は理解が出来なかった。
これ以上ないほど、色彩は丁寧にわかり易い絵を描いた。
だからなぜ理解してくれないのかと不思議であった。
絵のセンスが欠片もない。
言ってしまえばそんなものである。
賢いとか馬鹿だとかではない。
絵のセンスが微塵もないのだ。
腹立たしいほどに理解しない、センスに欠けてしまった少年。
それは短距離走とパイであった。
「絵本並みにわかり易い絵じゃない。パッと見難しいけど、クオリティの高さもあって超楽勝」
墾田ちゃんがいくらバカにしても気付いてくれない。
他の人が説明を加えてもわかってくれない。
全然わかってくれないので、色彩の芸術家魂が傷付きつつあった。
そして結局、その二人には理解したフリをして貰うと言うことになってしまった。
それに気付いていながらも、色彩は気分が良さそうに一言。
「美術代表であるわたしが優勝をする」