おんがく ~勝利の為~
「おぉぉぉおおおおおお!」
大声で歌うのではなく、シャープはなぜか叫んだ。
彼女の叫び声に戸惑い、皆は一斉にそちらを見る。
すると注目されているのが嬉しいらしく、シャープは得意気に笑った。
「折角想いを語ってあげるんだから、これくらいちゃんとこっちを向いて貰わないと。ね? だって歌姫シャープ様だもの」
実に楽しそうな笑顔であった。
そんな彼女の時間稼ぎは大成功と言えたであろう。
何事かと見はするけれど、すぐに興味を失ってしまう。
それがわかっていたから、シャープはそれを防ごうと考える。
その為に取った行動が、満面の笑みだったのである。
幼いころから舞台に立ち続けたシャープ。
天才と言われ続けたシャープ。
舞台上でなくても、他人を喜ばせようと努力してきた。
それは天才と呼ばれる大きな理由だと考えられるであろう。
「歌が好きな人に、自分の歌を届け幸せになって貰えたらって思って。歌が嫌いな人が、自分の歌で好きになってくれたらって思って。歌は十分届けられたし運命の出会いを果たしたし、満足っちゃ満足なんだけどね。自分よりももっと努力して、勝利したいと願っている人がいる訳だからさ」
なぜ優勝したいのか。という質問であった。
しかしシャープには、もう優勝する気などなかったのだ。
熱い思いで参加している訳ではない。
優勝出来ることならしたい、そんな程度である。
先程語ったことは、彼女の本当の気持ち。
歌を届けたい、純粋にそう思っただけなのである。
初めから、優勝する気などなかったのかもしれない。
ここに来る前、仲間たちも優しく声を掛けてくれた。
優勝には気を取られず、楽しんで来い。楽しめば、音楽の楽しさが伝わる筈だから。それに順位なんて関係ないよ。
仲間がくれた優しい言葉。その言葉の下戦っているので、シャープは楽しんでいるだけであった。
優勝に拘らず、自分がやりたいように楽しく勝負していた。
だからこそ、恐れずに様々な提案をすることが出来る。
そしてそれも、彼女の魅力として伝わっていた。
「ただ」
静かにシャープは言うと、大きく息を吸った。
「皆がちゃんとやらないなら、颯爽と華麗に美しく優勝を攫って行くからぁぁああ♩」