しゃかい ~勝利の為~
「皆とは違う。あたしは、そんなに美しい想いを持っていない」
素直で正直な墾田ちゃんは、自分の想いを語る以外の選択肢を持っていなかった。
自分を隠す彼女は、キャラクターを演じることなど出来なかった。
だから優勝に掛ける想いを飾らずに言うことにしたのである。
「悔しいからよ。このあたしが負けるなんて、そんなの認めたくないから」
しかし墾田ちゃんは、きちんと勝利を目指していた。
誰かに認めて貰いたい、そう願う訳ではない。
ただ、素直に勝利したいと思っていた。
「それに、社会と言う教科を皆に楽しんで欲しいの。確かに社会は分野に分かれていて、社会という単位で好きになる人は少ないかもしれない。あたしだって、他も好きだけどやっぱり歴史感が強いしさ」
出場したくて学んだと言うのもある。
得意だから極める為などもある。
そうだけど、彼女は単純に社会が好きであった。
だから優勝したいのは負けず嫌いなだけ。
そこまで重い理由で戦ってはいない。
つまり、楽しむことが出来るんだ。そしてそれが、反対に人気に繋がるところもあった。
「だから、全部を繋げればいいんじゃないかなって思って。精一杯楽しく出来るようなもの作って、それを皆に見せたくて。それにはやっぱり、ここかなって。優勝すれば、社会をもっと見てくれるだろうし」
彼女があまりに素直だったから、何も言えなかった。
作られた笑顔でなかったから、何を言うことも出来なかった。
その素直さも彼女の魅力なのであろう。
「任せられた教科で、頂点に立つの。大好きなこの教科で、頂点に立つの。社会はどれもゲーム化出来るから、子供受けもいい筈よね」
真面目に語っているのが照れ臭くなり、最後に少しふざけてしまう。
それも魅力と言えるところではないだろうか。
恥ずかしげもなく言うのではない。
本当の想いだからこそ、なんだか恥ずかしそうに言う。
彼女は素直と言う素晴らしい魅力を持っているので、頑張ることも出来る。
嫌われ易い不器用さも、どんどん可愛さに変わっていく。
絡めば絡むほど、好意的に思われるタイプ。
つまり、表面ではないのだ。
根が優しくていい子なのである。
「最初にも言ったけど、も一回言ったげる」
ぺったんこな胸を張って、勝ち誇った笑顔で宣言。
「最後の勝者はあたしよ!」